小説家志望歴30年が結構本気で書いた小説を読んでみてほしい

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皆様ごきげんよう。
子供の頃から文章を書くのが大好きで、小説家になりたいなあ…と思いつつ中々行動に移せず30年の時を経てこの記事を書いています。しおたろう100号と申します。
という訳で(どういう訳だというツッコミはなしで)今回は自分が書いた小説を載せられないかなと思ってこうしてキーボードを叩いております。
昔はとにかく話を作るのが大好き!!という気持ちは強かったものの中々完結まで到達させることができずにいました。
だからノートに原案みたいなのは沢山あるのです。
いつか完成させると思うだけではそのまま人生が終わってしまうので、自分なりに一生懸命区切りの付く形で作り上げた作品です。
拙いですがお付き合いいただければ嬉しいです。

目次

プロローグ

「何するのよ!私のことなんか好きじゃないくせに!!」
ーバッチンー
頬を叩いた音がその場に響く。
信じられない。
思わず手の甲で口を拭ってしまう。
(初めてのキスだったのに!!)
涙が溢れそうになる。
私はその場から走り去った。

親友の誘い

「忍さ、今好きな人とかいるの?」
それはニヶ月前のこと。
仕事休みの日曜日、親友の美咲と一緒にショッピングした帰りに寄ったカフェでそう尋ねられたのが全ての始まりだった。
私は高校生の頃に大きな失恋をしたのが忘れられず、それからあまり恋愛に積極的になれずにいる。
正直その時の事はあまり話したくなくて、詳しくは美咲も知らない。
今まで恋愛絡みの話になると適当にかわしてきたけれど、今回はそうもいかなかった。
「うーん…別にいないかな。あんまりピンとくる人いなくって」
えへへと笑いながらそう答えてこの話は終わり。そうしたかったのに今日の美咲は話題を流すのを許してくれなかった。
「じゃあさ、素敵な人がいるんだけど会ってみない??」
「え!?紹介ってこと?」
「そう!会ったらきっと気にいるんじゃないかなと思ってさー」
「いやー、でも…」
「お願い!会うだけで良いから!」
例えどんなに素敵な人でも会うつもりは無かったけれど、こうして押し問答していても仕方ないので渋々美咲の話を聞いてみる。
「秋君の会社の人なんだけど彼女がいないって聞いて。ほらあそこ男ばっかの職場じゃん?出会いがないみたいで」
秋君とは美咲の彼氏のことだ。
最初の口ぶりからその相手が是非紹介してくれと言ってるのかと思ったが、どうやら違うらしい。
何かのきっかけで秋君と美咲で私の話題になったらしく、彼氏がいないなら二人をくっつけたら良いんじゃね?って話になったというんだから本当余計なお世話だよ…
「忍に彼氏ができたらダブルデートとかできるじゃん??そういうのに憧れてたからさ。お願い!」
そう言って美咲はパチンと手を合わせた。
こうなるとこっちの都合なんてお構いなしだから困る。
でも美咲は親友として、私が彼氏を作らないでいる事をずっと心配してくれていたのも知っているから胸中は複雑だった。
かなり気は進まなかったけれど、幸い相手もそこまで乗り気って訳じゃないみたいなので、後日顔合わせだけすることを了解してその日は別れた。

私ももう24歳だ。
結婚した友だちだっている。
フリーの子なんかは積極的に出会いを探してる子の方が多いように感じる。
それなのに私はずっと変われなくて…

あぁ考え過ぎて頭が痛い。
ウジウジ悩んでるのが馬鹿馬鹿しくなってその日は早めに眠りについた。
その次の週の土曜日、早速美咲と秋君とその同僚と私の四人で食事をすることになった。
美咲と私、秋君と同僚の方でそれぞれ待ち合わせて店に向かうことになっていて、私たちは一足先に店に到着して席に着いていた。
柄にもなく緊張する私に、美咲は「始まったらお酒でも飲んでリラックスしたら良いよ」と超楽観的。
それから少し経って、約束の時間きっかりに秋君が登場。
「お待たせ。忍ちゃん、今日は時間くれてありがとうね。おーい、テラシマこっち!」
テラシマ…その名前に思わず反応する。
まさかね。
そう言い聞かせて気持ちを落ち着かせ“テラシマさん”を迎え入れたんだけど…そこから私の心は修羅場だった。

まさかの再会

「こんばんは。今日はよろしくお願いします」
そう言ってその男が顔を上げた時、私は思わず声を上げてしまった。
「なっ…!」
訳が分からない美咲と秋君がキョトンとした顔でこちらを見る。

寺嶋勇気。
私はこの男を知っていた。

「ごめんなさい、スマホ落としそうになってびっくりして変な声が出ちゃった。こんばんは。こちらこそよろしくお願いします」
美咲と秋君に心配をかけたくなくて、私は何でもない顔をして寺嶋にそう挨拶をした。
寺嶋は私の事に気付いていないのか特に反応なし。
改めて席に着いて自己紹介をしたり、他愛無い話をして私の思いをよそにその時間は平和に過ぎていった。

「じゃあこれでお開きってことで。寺嶋、忍ちゃんを送っていってよ」
帰り際、秋君が寺嶋にそう声をかけて私は途中まで送っていってもらうことに。
正直あまり彼と一緒にいたくはなかったけれど、向こうは私の事なんて覚えてないみたいだし、断る方が不自然になりそうだから拒めない。
お店を出て二人歩く。

美咲と秋君と別れて五分くらい歩いた頃、寺嶋が口を開いた。
「…今日来るの村上って知らなかったからびっくりしちゃった」
え?!
村上とは私の苗字のことだ。
「全然知らない様な顔してた癖に気付いてたの??」
寺嶋は二人の前では顔色一つ変えなかったけれど、私のことちゃんと覚えていたんだ。
「こんな再会ある?ウケる」
寺嶋はおかしそうに口元に手を当てて肩を震わせた。
「全然ウケないよ…本当最悪」
私は不機嫌さを隠すことなく寺嶋を睨みつける。
「そんな怖い顔しないでよ。折角だから仲良くしよう?」
ね?と寺嶋は柔和な笑顔を近づけてきた。
その整った顔立ちに思わずドキリと心臓が高鳴ってしまう。
ダメだダメだと頭をブンブン振る。
私はコイツのせいで恋愛に臆病になったんだ。
その元凶に心を許す訳にいかない。
「ねえ、もしかしてまだ怒ってるの?」
「はあ?自分のした事覚えててこんなに馴れ馴れしい態度取るとか本当信じられない」
背を向けて立ち去ろうとする私の右手を寺嶋は後ろから掴んで離さなかった。
「待ってよ。村上の連絡先教えて」
「意味分かんない」
「だって紹介されたってのに連絡先も交換しなかったって言ったらアイツに怒られる」
そんなのどうだって良い…と思ったけど、確かに美咲もきっと「折角の出会いだったのに勿体ない!」とかうるさいんだろうなあって想像できてそう考えると確かに面倒くさい。
多分それは顔に出てたんだろう。
「だから…ね?」
寺嶋はスマホを片手にヒラヒラと動かして、もう一度連絡先交換を要求してた。
「分かったよ…」
ここまで来たら仕方がない。
覚悟して連絡先交換をすぐに済ませた。
連絡取らなきゃ良いだけだから、何も気負う必要ないよね。
それから近くの駅まで送ってもらって、そこで解散。

それで終わり…のはずだった。
はずだったのに、その翌週、私は寺嶋と一緒に何故かランチを食べていた。
「ここのご飯やばい!めっちゃ美味しいね。一回来てみたかったの」
寺嶋は上機嫌でご飯を口に運ぶ。
(なんで私はここにいるんだろう?)
なかなか手を進めないでいると寺嶋は私の顔を見つめた。
「あんま好きじゃなかった?それとも体調悪い?」
その表情は本当に心配しているのが分かって、私はハッと我に返る。
「美味しいよ!超美味しい」
ご飯に罪はない。
本当に無理してるとかじゃなくてご飯は凄く美味しかったから、そう言って一生懸命食べた。
「村上とこうしてまた話せるなんて夢見たい」
ご飯を食べ終わって、デザートを待っている時に寺嶋がそんな風にポツリと言った。
私にとっても嘘みたいな話だ。
そして寺嶋はやっぱり変わってないなと改めて思う。
その優しさに勘違いして、どん底まで傷付いた事を思い出した。
ちょっとだけ泣きたくなる。
でもしっかりデザートは美味しくて、そんな店を紹介してくれたのが目の前にいる寺嶋だっていうのが悔しかったけど口に出さなかった。
その日は早めに解散した。
癪だけど一緒にいて楽しいと思ってしまった自分がいる。
家に着いた頃メールが届いて、また出かけようねなんて書いてある。
私は返事を打つ前にベッドに横になった。
気付くと寺嶋と出会った頃を思い出していた。

あの日の記憶

高校二年生の頃、同じクラスだった私と寺嶋はとても仲が良かった。
私に男の子の友達は殆どいなくて、それなのに女子の友人より一緒にいて心地いい寺嶋が特別な存在になるのに時間は掛からなかった。
好きな気持ちが膨らんで、どうしようもなくなって。
私は寺嶋に気持ちを伝えたいと考えるようになった。
単なる自惚れだけど、寺嶋に好かれてたことは分かってたし、周囲もまだ付き合わないの?って感じで。
だからある日、寺嶋の机に“放課後校舎裏に来てください”ってメモを忍ばせた。
どんな反応するかなと心配していたけれど、寺嶋はその紙になかなか気付かなくて昼休みに入るまで何事もなくいつも通り過ごしていた。
しかし昼休み、私が席を外した時にそれは起こった。
寺嶋が机を動かした拍子にそのメモがヒラリと落ちてしまったのだ。
運悪く、丁度近くにいたのがガキっぽい男子生徒で、そいつはその手紙を拾うなり音読し始めた。
「…だってよ。村上って寺嶋のこと好きなんじゃね?」
奇しくも教室に戻ってドアに手をかけた瞬間の出来事だった。
その男子の言葉に自分の周りの空気が凍った気がした。
寺嶋は困った様に笑っていたと思う。
「僕たち仲良いから、単なるお誘いのメモでしょ」
そう言って取り上げるとシャツのポケットにメモを仕舞い込む。
「なんだつまんねーの」
「そんなこと言うなよ。大体僕、女子と付き合うつもりはないし。僕にとって村上はそういうの関係なく大切な存在だ。村上もきっと同じ気持ちだと思ってる。だから君の求める様な展開にはならないよ」
寺嶋は軽々しくそんな事を言った男子を若干軽蔑した感じで吐き捨てるようにそう言った。
その言葉は確実に友人として私を信頼してくれていると思える言葉だったけれど、凄く遠くに突き放された言葉のようにも思えた。

放課後、校舎裏で待っていたら
「村上〜!来たよ〜」
いつもの屈託のない笑顔で寺嶋は駆け寄ってきた。
「寺嶋…実は今日は話したい事があって」
そう口にするだけで心臓が爆発しそうだった。
「実は僕も村上にどうしても言っておきたい事があるんだ」
寺嶋からも話が??
もしかして…と期待してしまう自分がいる。
こういう時は自分から話すべき?
迷っていたら寺嶋からギュッと手を握られた。
「あ、あの…」

「彼氏ができたの!!」

は?
何を言ってるのかが分からない。
「えっと…何…?」
「村上は大切な友達だから、ちゃんと報告しておきたくて。ずっと好きな人がいたんだけど、昨日付き合える事になってさ…」
こんな幸せそうな顔をしてる寺嶋を見たのは初めてかも知れない。
私、何を伝えようとしてたんだっけ…?
そう思ったら気付いたら泣いてた。
告白しようとしたらなんでこんなに先回りしたみたいに全部気持ちを挫かれるんだろう。
なんかめちゃくちゃ惨めな気持ちになって涙が止まらなくなってしまった。
そんな私の姿を見て、それまで笑っていた寺嶋の顔が変わった。
「もしかして…村上って“そういう意味で”僕のこと好きだったりする?」
言葉がうまく出なくて、私はただただ頷いた。

そうだよ。ずっと好きだったよ。
寺嶋も私のこと好きだと思ってた。

「村上は僕にとって特別な子だけど、付き合うとかそう言う好きな人ではない」
決定的な言葉で私は振られてしまう。
それから私たちは校舎を背に二人並んで腰を下ろして、話を続けた。
彼氏は初めて心の底から好きになった人だってこと。
自分は女の子とばかり友達になることが多くて、でもその中でも私の事は親友だと思うくらい大好きだってこと。
本気で大切に思うから言ってくれてるんだろうなって分かるから、余計にキツかった。
「じゃあさ、そんな風に思ってくれてるならこんな形じゃなくて振られても良いからちゃんと告白させて欲しかった」
今更言っても遅いけど、そう言わずにいられなかった。
「ごめんね」
寺嶋は悲しそうにそうポツリと呟く。
「本当は村上の気持ちどこかで分かってたんだ。だからそれを言われて関係が壊れるくらいなら聞きたくなくて、僕は逃げていたんだと思う。ずるいよね…」
そう言って寺嶋は立ち上がって、くるりとこちらを向いた。
「だからさ、僕が好きなのは男だってみんなに言っちゃって良いよ!それで村上の気が済むなら」
いつもの笑顔で言う寺嶋のその言葉に、目の前がカーッと赤くなったのを覚えてる。
「何それ!振られたからって私がそんな酷いことする女だって思ってるってこと??」
さっきまでの悲しい気持ちはどこへやら。
私はその時人生で初めて本気で人に腹を立てたんだと思う。
「本当に大事な友達だと思ってるならそんなこと言う訳ない!!馬鹿にしないで!!」
そう寺嶋に言葉をぶつけると私は走って家へ帰った。
それからの二人は今までの仲の良さが嘘のように一言も口を聞かなかった。
そして私はそのことが結構なトラウマになって、誰かに恋愛感情を抱くことに臆病になってしまったのだ。
当たり前だけど彼のセクシャリティについてを誰かに話すようなことはしなかった。
私が話すべきことではないとそれくらいは分かったから。
でもそこを話さないとなると、なんで自分が恋愛を怖いと思ってるのかがうまく伝わらなくて…
だから自分の恋愛に対する気持ちというのは、親友の美咲にさえ話したことは無かった(美咲は大学からの友人なので勿論寺嶋のことは知らない)。
まさかそれから何年も経って、寺嶋を恋人候補として紹介されることになるとは予想もしてなかった。

…世間て狭いね。
て言うか今の寺嶋はフリーって事なんだろうか??
相手がいれば、いくら懐かしい友人との再会と思ってもこんなにすぐに誘っては来ないよなあ。
もし周囲にゲイだとカムアウトしてないとしたら、交際相手がいないからと今回みたいに紹介だとかいらぬお節介を焼かれることが多いのかも??
今度会った時にその辺聞いてみるかな。
そんな事を思いながら、寺嶋にメールを返した。
それから私たちは毎週末会った。
我ながら暇だなあと思うけれど。
まるで高校の時喧嘩別れした時間を取り戻すようによく話して、よく食べて、よく飲んだ。
もしかしたら彼女がいないと答えただけで彼氏はいるんじゃないかなんて心配したけれど、今は完全にフリーで間違いないらしい。
もう二年くらい恋人はいないそうだ。
私の方はと聞かれたので、ありのままを話したら爆笑された。
原因の張本人にそんな態度をされると腹が立つ。
不貞腐れた顔をしてグラスに残ったお酒を一口飲んで、寺嶋の顔をもう一度見たら真顔になってて
「本当ごめん」
そう一言真っ直ぐに言われた。
実は寺嶋とこうして会うようになって、あの頃の苦しさとかそう言うのはだいぶ減ってた。
だからそんな顔をさせてしまったことに少し心が痛む。
シュンとしている寺嶋のおでこをツンと突いて、だったら今日は奢ってくれたらそれで良いよなんて軽口を叩いて笑った。
「寺嶋と一緒にいるの楽しいよ。あの時連絡先交換してくれてありがとうね?」
「こちらこそ。村上は気まずかったのに付き合ってくれてありがとう。あの頃に戻ったみたいで僕も楽しい」
そんな風に言い合ってグラスをカチンと合わせる。
本当に楽しい。
あぁ、やっぱり私は寺嶋が好きだなと思った。
でももう子供じゃないから、あの頃みたいに気持ちを押し付けようとは思わない。
一緒にいられるだけで幸せならそれで良いやって心からそう思えた。
ちょっと今日は飲み過ぎて、私は寺嶋がトイレから帰ってきた時にうたた寝てしまってたらしい。
その日はお開きになった。
寺嶋は心配だったらしく家の近くまで送ってくれた。
次の日は生まれて初めての二日酔いで頭痛がやばかったけど、楽しかった記憶はちゃんと残ってたので少し安心した。

アイツの気持ちが分からない

今日は美咲と会う約束の日だ。
会ったら案の定、寺嶋との事を色々と聞かれた。
実は高校の同級生だったことや(当時の詳しい話はしてない)結構頻繁に会ってる話をしたら美咲は凄いニヤニヤしてた。
私から男の話を聞く事なんて無かったからなんか新鮮なんだろうなと思う。
付き合わないの?と聞かれたりもしたけど、そこは流れに任せるとだけ答えた。
まさか彼はゲイだから付き合えないなんて言える訳がない。
まあそんな感じではあったけど、美咲は安心したらしい。
またみんなで一緒に飲みに行きたいねなんて話して美咲とは別れた。
その事を寺嶋にメールしたらすぐに『みんなで飲みに行くの賛成!』と返ってきた。
確かに寺嶋と再会した時はお互いに猫かぶってるというか知り合いだと言う事を隠してたから、改めてみんなで会うのは良いかもしれないなと思う。

それから二週間後。
みんなの都合が良い日ができて、また四人で飲もうということになった。
今度は美咲、秋君カップルと私たちでそれぞれ集まってから店で合流する事になっている。
私と寺嶋は早めに落ち合って、いつもみたいにウインドウショッピングをしたり楽しく過ごすはずだったんだけど…
寺嶋が気もそぞろと言うか心ここに在らずの状態になってる気がして眉を顰める。
「何かあった?」
「え?なんで?何もないよ?」
寺嶋は私が不機嫌になってるのにも気付かない。
(いつもなら楽しく過ごせるのに…なんでかなあ)
そう思って小さくため息を吐いた。
美咲たちと合流する時間になった。
すると今までソワソワしてたのはなんだったのか寺嶋は私と二人でいた時よりも生き生きした表情をし始めた。
「もうアイツら着いてるかな??」

ムカ。
そんなに二人より四人の方が良いの?
そりゃ私は彼女でもなんでもないし、最近よく一緒にいるから飽き飽きって思われたとしても仕方ないかも知れないけどさ…
なんかそんなことばっかり考えてたら凹んできた。
私やっぱり欲張りだなあ。

店の前でいざ合流。
そしたら寺嶋は秋君の隣にすぐ行っちゃって、テーブルに着く時も二人隣同士になって男女に分かれて向かい合うような感じで座る事になった。
初めて会った時もその並びだったけど、今回は別に私と寺嶋が隣でも良かったんじゃないの…?
そこからはなんか寺嶋の様子が気になって、お酒をごくごく飲みながらずっとそっちばかりに目がいってた。
寺嶋やたら秋君とばかり喋ってる。
ていうか秋君と話してる時の笑顔、私と話してる時よりも楽しそう。
もしかして…寺嶋って秋君が好きだったりして??
だって寺嶋はゲイだから、そもそも女の子を紹介してもらうって言われて素直に来るのかな??とか…
考え始めるとそればっかりになってダメだ。
気付いたらいつもより飲み過ぎてベロベロになってしまってた。

「もー忍飲み過ぎ!もう帰るよ」
美咲は呆れたように私の手を引っ張った。
「村上、大丈夫?」
寺嶋のせいでこんなになってるのに!!と頭の中で思ったけど、そんなのただの八つ当たりだ。
「大丈夫だよ」
私は寺嶋と目が合わせられなくて、素っ気なくそんな風に返した。
「僕、村上のこと送ってくよ」
店を出てすぐ寺嶋がそう言って私の両肩を後ろから支えてくれた。
「寺嶋君ありがとう!忍、迷惑かけたらダメだからね?」
美咲がそんな風に言って、私は寺嶋と帰る事になった。

本当なら嬉しいはずなのに、私はすっかり拗ねてしまっていつもなら隣を歩くはずが寺嶋の三歩後ろを黙ってついていった。
「村上、ちょっと酔い覚ましにあの公園歩いて帰んない?」
寺嶋に言われて、私はただ頷く。
「今日、楽しかったなあ」
歩きながら寺嶋がそう言って笑う。

(上の空の時の方が多かったくせに)

心の中で毒吐いた。
「アイツには感謝しないとな。またこうして村上に会えたし」
そう言った寺嶋の笑顔は私に向けられているのに秋君のためのもののような気がして泣きそうになる。
「そう…だね…」
ダメだ。涙が溢れる。
下を向いたらポトリと涙が落ちていった。
「え?どうして泣いてるの??」
私の涙を見て寺嶋が狼狽える。

(きっと今日は飲み過ぎたんだ)

なんでもないよ。そう言おうと顔を上げた瞬間、寺嶋に抱きしめられた。
寺嶋の胸元に顔がくっつく。
ドクドクと心臓がなる音が聞こえる。
寺嶋らしい優しい音だった。
「ごめん…飲み過ぎた。なんでもないから離して」
私が言うと寺嶋は少しずつ腕の力を抜いて、私を解放してくれた。
なんで寺嶋は私を抱きしめたりしたんだろう。
あんまりにも私が危なっかしかったのかな。
この前は片想いで良いと思ってたはずなのに、寺嶋の行動に心を乱されっぱなしだ。

「ねえ、寺嶋って今好きな人いるの?」

酔った勢いで私はそんな事を聞いてしまう。
寺嶋は赤くなって一瞬あたふたして
「んー。あー…い、いるよ?」
そう言った時、寺嶋は目を合わせてもくれなかった。
そんな気はしてたけど、いざそう言われるとやっぱり凹む。
なら聞かなきゃ良いのに…と思うけど、恋する気持ちって難しいな。
そう言うとこ、もう大人なのに高校生の頃と全然変わってないみたい。
暫く黙って歩いて。
噴水のところに着いた時、急に辺りが明るくなった。

「間に合った」
寺嶋はそう言ってニコリとした。
この公園の噴水は決まった時間にライトアップされて綺麗だって人気なんだよと教えてくれる。
そして自然に寺嶋の腕が私の肩を抱いた。
そっと顔を上げて寺嶋の顔を見るとその目はとてもキラキラと輝いていて、もしかしたらその好きな人と来た時を想っているのかなと想像して切なくなる。
暫くして、ライトアップが終わって。
それでも寺嶋は動かなかった。
「寺嶋…?」
流石にずっとこの体制は心臓に悪い。
そう思って袖を引っ張ったら、寺嶋はハッとしたように腕を引っ込めた。
「ごめん…」
沈黙が続く。
「もしかして好きな人のこと考えてたの?」
歩き始めてちょっとして、私は気づくとポツリとそう口にしていた。
「…うん。そうだよ」
そう答えた寺嶋は凄く良い笑顔で頷いた。
「私、寺嶋の好きな人分かったかも」
その笑顔が秋君と話してた時と同じに見えて、そんな言葉が口を吐いてしまう。
寺嶋には思いも寄らない言葉だったみたいで、驚いた様に大きく目を見開いた。
「分かっちゃった…か」
左手の人差し指で頬をかくその仕草は、照れてる時の寺嶋の癖だ。

(やっぱり)

くるりと寺嶋に背を向ける。
こんなに気持ちを乱されるのってきついな。
「もうこれで会うのやめよっか」
勢いに任せてそんな言葉を寺嶋にぶつける。
「え?なんでそんなこと言うの??僕なんかした??」
私の肩を掴んだ寺嶋は分からないと言う風にそう言った。
寺嶋は悪くないのに私のわがままだ。
「だって…」
そう言いかけた時、寺嶋の顔が少しずつ近付いてきた。
その瞬間はまるで時間が止まったみたい。
気付くと私は寺嶋からキスされていた。

(なんで…?)

それ以上何も考えられないでいたら、唇がゆっくりと離れた。
「何するのよ!私のことなんか好きじゃないくせに!!」
寺嶋は何か言おうとしたけれど、その言葉が聞こえる前に私は思い切り彼の左頬にビンタしてしまった。

その後は最初の通りだ。
家に帰り着いてからわんわん泣いた。
好きな人と生まれて初めてのキスをしたのに、こんなに悲しい気持ちになるなんて思わなかったよ。
再会なんてしなきゃ良かった。
そしたらこんな気持ちになんてならなくて済んだのに…
翌日は泣き過ぎて目が腫れて酷い顔だった。
勿論仕事はいつも通りこなしたけど、やっぱり寺嶋の事が頭にチラついてしまう。
仕事終わりロッカールームに着いた頃、メールの通知が届いた。

『昨日はごめん。村上の気持ちちゃんと考えられてなかった。直接会って謝りたいのでチャンスを下さい』

寺嶋からのメールだ。
なんでこんなクソ真面目なのにあんな事したのかなあ。
前の喧嘩別れの時みたいにフェードアウトで終わりにはしたくなくて、私は分かったと返事を送った。
私の職場と寺嶋の職場は割と近くて、徒歩で行き来できる距離にある。
やり取りをした結果、その日のうちに話をした方がお互いに良いという話になって、近場のお店で今日会う事になった。
奇しくもそこは再会して初めて二人でランチに行ったお店。
お昼はランチをやってるカフェといった印象だけど、夜はお酒も飲めてなかなか雰囲気の良い所だ。
こんな時じゃなく、二人で行けたらどれだけ良かっただろう。
お店に着くと、既に寺嶋は中で待っていた。
手を振って、こっちと呼んでくれたのですぐに見つけることができた。
私が席に着いてすぐ、寺嶋はテーブルに額がつかんばかりに頭を下げ
「昨日はほんっとごめん!!」
そう謝ってきた。
ずっと悲しくてモヤモヤしていたけど、いざ寺嶋を前にするとやっぱり嫌いだなんて思えなくて不思議な気持ちだった。
「良いよ。ほら、頭上げて」
「でも…」
寺嶋は私が怒ってると思っているようで、恐る恐る私の顔をうかがう。
「もう…」
取り敢えず注文をしようという事になって、お店の人にオーダーを伝えた。
改めて寺嶋と顔を見合わせる。
私が昨日思ったことは、ただ一つ。
好きでもないのに思わせぶりな態度を取られる事が辛い。これだけだ。
やっぱり寺嶋のことが好きなのは変わらなくて、その気持ちは自分でどうにもできるものじゃないと悟った。
「寺嶋ってさ、好きな人いるって言ってたよね?」
「うん…」
私の問いかけに寺嶋は素直に頷く。
「だからさ、良くないと思うんだよね」
私が言うと寺嶋はよく分からないという様に首を傾げる。
「昨日私のこと抱きしめたり、き、キスしたりしたじゃん!そういうのだよ」
そこまで言うと寺嶋はハッとした顔になった。
「ごめん。村上の気持ち考えずに…反省してる」
寺嶋はシュンとしてるけど、伝えるべきことは言わなければ。
「確かに秋君は美咲とラブラブだけどさ」
好きな人が手に入らないからって代わりみたいされると傷付くっていうか。
そんな風に小声で言うと寺嶋はキョトンとした顔になった。
「なんでそこで武内の名前が出てくんの?」
武内とは秋君の苗字…ってそんなことは取り敢えず置いとく。

ちょっと待って。
話が何かずれてる気がする。

「寺嶋は秋君が好きなんじゃないの?」
「え?なんでそうなるの??武内のことそんな風に思ったことないよ?」
「だって、昨日秋君に会ったら私といた時よりなんかテンション上がってたし」
「それは…」

そこまで話した時、丁度注文してた食べ物がテーブルに運ばれてきた。
温かいうちに食べた方が良いねと二人で黙々と食べ始めた。
てっきり寺嶋は秋君が好きで、昨日も秋君と会えるのが嬉しくてソワソワしてたものだとばかり思ってた。
違うってこれだけはっきり言うんだから、その言葉には信憑性があると思う…つまり寺嶋が好きなのは他の人って事になる。
うーん…考えても頭がこんがらがるばかりでまとまらない。
「寺嶋の好きな人ってどんな人?」
食べながら聞いてみた。
寺嶋はちょっと困った顔をしたけど、すぐ答えてくれた。
「そうだなあ。一緒にいると楽しくて、安心できて…二人でいるだけで幸せになれる。そんな人」
そう言った寺嶋はとても幸せそうな顔をしてた。
そんな顔になるんだもんなあ。
ズルいよ。
応援しなきゃって思うじゃん。
私はふぅっと息を一つ吐いた。
「寺嶋に言っておかなきゃいけない事があるの」
自分の気持ちに蹴りをつけて、それで友達として彼の幸せを心から応援したい。そう思った。
「私、寺嶋のことが好きなの。高校生の時に失恋して…それなのに何言ってんのって感じかも知れないけど。でもやっぱり寺嶋といると楽しくて、安心できてずっと一緒にいたいって思っちゃうの」
言葉にしたら涙が出てきた。
困らせたくないのになあ。
ごめんって言いながらハンカチで涙を拭って。
その間寺嶋はずっと真剣に話を聞いてくれてた。
「好きな人がいるのにごめんね。こんな風に気持ち押し付けてごめんね。でも言わないとダメだって思ったから」
ちゃんと伝えて振られたら意地でもその気持ちを消化して、ずっと寺嶋と友達でいたい。
そう伝えた。
気付いたら寺嶋も泣いてた。
スーッと流れる涙が綺麗で思わず見惚れてしまう。
「ダメだよ」
涙を拭って寺嶋は言った。
「僕は村上と友達じゃいられない」
少しは予感していた言葉だったけど辛い…私が立ち上がろうとすると、寺嶋はその手を握って離さなかった。
「待って、そうじゃないんだ」
その表情は真剣そのもので、私は圧倒されて立ち上がるのを諦めた。
「あーもう…僕こう言うとこがダメなんだよな…ごめん」
寺嶋はそう言って左手で頭をくしゃっとした。
「これ…」
寺嶋は一度私の手を離して、カバンからプレゼントの様なものを取り出した。
「本当は昨日渡したかったんだけど」
そう言って渡され、私は包みを開けると中身はとても可愛いネックレスだった。
でもなんで??
「あのさ、村上ちょっと勘違いしてるみたいだから話すけど、僕ゲイじゃないからね?」
「え?だって高校の頃、彼氏って…」
寺嶋はあーやっぱりって顔をした。
「確かにあの時付き合ってたのは彼氏だよ。間違いない。でも僕は女性も好きになる。バイセクシャルって言ったら分かるかな?」
私はてっきり寺嶋は男の人しか好きになれないんだとばかり思っていた。
だから秋君のことを好きなんじゃないかと思ってしまった訳で…
「今僕が好きなのは女の子。ちゃんと言葉にするのが遅くなったから不安にさせてごめん。村上の事が好きです。こんな僕だけど付き合ってくれませんか??」
嘘みたいだ。
本当はもしかしたらって思う気持ちがなかったって言ったら嘘になる。
でも傷付くのが怖くて逃げようとした。
「ごめんなさい」
色んな感情が湧き出して涙と共に出た第一声がそれだった。
「え?ダメだった??」
断られたと思って寺嶋がアワアワしてたけど、すぐ言葉が出てこなくてただ首を大きく振った。
少し落ち着いて気持ちが言葉にできるようになってきた。
「違うの。傷付くのが怖くて寺嶋の気持ち決めつけてしまったから。本当にごめんなさい」
「ということは…?」
寺嶋が不安気に聞き返してきたので
「大好きです。付き合ってください」
心からの笑顔でそう答えた。
「よっしゃ!!」
寺嶋は本当に嬉しそうにそう言ってガッツポーズして見せた。
それから色々話を聞いた。
何で昨日ソワソワしてたのかと言えば、このプレゼントを渡して告白しようとしていたこと。
女の子にプレゼントするなら何が良いか全然分からなくて、彼女がいる秋君に相談に乗ってもらってたこと。
秋君と美咲カップルみたいな良い関係になれたら良いなあと思ったら段々ソワソワした感じが落ち着いてきたこと。
実は前に二人で飲みに行って、飲み過ぎた私がうたた寝してしまった時に寝言で私が寺嶋のことを好きだと言ったのを聞いてしまっていたこと…
最後の話は本当に全然無意識だったから顔から火が出るかと思うほど恥ずかしかった。
で、両想いなんだと思っていたものだから、告白する前から昨日みたいな大胆な事をしてしまったけど、ちゃんとケジメを付けてからするべきだったとまた謝られた。
結局私が勘違いしてただけで私は寺嶋と両想いだったんだ。
「そのネックレス、僕が着けていい?」
そう言って寺嶋は私の首にネックレスをかけてくれた。
食事が終わって店を出て。
今日は恋人らしく手を繋いで歩く。
嬉しいけれどやっぱりちょっと照れくさい。
家までの帰り道、幸せな気持ちで満たされた。
「ねえ村上。折角お付き合いするんだから、苗字呼び捨てで呼び合うのってなんか色気なくない?」
途中、寺嶋がそんな提案をした。
「忍って呼んで良い?」

名前呼び…!思ってる以上に破壊力がある。

「い、良いけど」
「忍。じゃあ僕のことも名前で呼んでくれるよね?」
「ゆ、勇気…」
「もっと大きな声で呼んでよ」
「勇気!」
バカップルにも程があるやり取りだけどそんなやり取りにキュンキュンしてしまう。
今日も家の前まで送ってもらった。
「忍、今日はありがとう」
「私こそありがとう。家まで送ってもらっちゃったし」
「じゃあ、また連絡するね」
手を離した途端、寂しい気持ちになってしまう。
「あの、良かったら…」
そこまで言ったところで勇気にそっと指で口を塞がれた。
「僕たちのペースでゆっくり愛を育もうね」
家に誘い入れてそのまま…って考えてたこと全部勇気にはお見通しだったみたいで恥ずかしくなる。
「じゃあまた」
そう言って頬にキスをされた。
昨日は悲しい気持ちになったキス。
今日は心がポカポカするような幸せなキスだった。
それからバイバイして家に入る。
一日で私は世界一の幸せを手に入れてしまった。
昨日の私に言っても絶対信じない。
でも紛れもなく本当の事。
私の片想いの話はここでおしまい。
勇気と恋人になった後の事はまた別のお話。

終わりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。
意外と長いお話だったのでお疲れではないでしょうか?
この物語に登場する四人は自分にとって愛着のあるキャラクターなので、また別の物語も紡いでいければ…と考えております。
一人でもなんか面白かったかも?と思って下さる方がいらっしゃればそれだけで幸せでございます。
またお会いできれば嬉しいです。
それではごきげんよう。

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この記事を書いた人

しおたろう100号 しおたろう100号 イオン天草 スタッフ

百合とゲームとアイドルがあれば他に何もいらないかもしれない雑食ヲタク。
生まれて一番影響を受けたアニメ作品は間違いなく「美少女戦士セーラームーン」。
今までで一番時間を費やしたゲームは「ときめきメモリアル」で、switchでもできるようになれば良いのにとずっと思っている。
いつか百合を題材にした恋愛シミュレーションゲームを作るのが夢らしい。

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