みんな大好きPOPのはなし
え-。この度「若手のアルバイトの為のPOP講座」的な感じのなんかをやることになりまして。はい。
んでですね、そうペラペラ人前でしゃべるスキルなんかないんで僕。
資料でも作っておかないとgdgdになりそうだなーって事でちょっとまとめておこうかな?と思ったんですが、ヴィレッジのPOP の話って割と皆さん気になってそうなんで、どうせならここで書いてみようかな?
と。
そうです。
企業秘密の漏洩です。
漏らしてやります。反逆です。
などと息巻いてみたのですが、本部の校正担当者曰く「単なるPOPへの偏愛語りなので何も漏れてないから大丈夫」だそうです。
ヴィレッジ店員以外の人にとって、日々の暮らしの中で突然黄色い紙にふざけたPOPを書かなきゃならなくなる日が来ることは多分ないので、なにも漏れてないしノーダメージらしいです。残念。
という訳で勝手に始めます。
ヴィレッジヴァンガード的POP講座
「綺麗な飾り文字の書き方なんか、俺は知らん!」編、スタート。
POPを書く際に心掛けておくといい事4つ
あ、最初に言っておきますが、
でっかいPOPに絵や装飾を施した、いわゆる【看板POP】の話はしません。
今回の話はあくまで「コメントPOP」のことについてです。そのことをまず念頭に入れた上でお願いします。
で、そういった「コメントPOP」を書く際に大事(だと思ってる、実際どうか知らんけど)な事が4つあります。
- ① お客さんは僕らが思ってる程、熱心じゃない。
- ② 欲しい物を買うのにきっかけは要らない→欲しくない物を買う時にはきっかけが必須
- ③ 誰が見ても分かってる物なら、ただ印象を残すだけでいい。
- ④ 「個」を出さない。
以上です。
それでは、この4つについて順番に例を挙げて説明していこうと思います。
① お客さんは僕らが思ってる程、熱心じゃない。
これ自分もそうなんだけど、お客さんってそこまで意識的にPOP見てるわけじゃないです。POP書いてると、みんなが見てくれてると勘違いしがちなんだけど
「そのPOP、書いたキミが思ってるより見てくれてないよ」
と思った方がいいです。
なんでかって言うと「お客さんの関心は本来、商品にあるから」です。だってPOP買うわけじゃないでしょ?
じゃあどうするのか?
商品を見ようとした時に自動的に目に入ってくるPOP
というのが理想です。
見ようとしなくても頭に入ってくるような
「一目で全文読めるくらいの1,2行の短いセンテンス」
で、
「人が書いているという事をできるだけ感じられるくらいの上手すぎず下手すぎずの字体」
で。
「見た瞬間に全文読めるような単純な内容」
とか
「見た瞬間に『?』と疑問を抱かせるような内容」
になるように気を付けてみるとベストです。
と言っても「そんなの簡単じゃない」と思いますよね。
なのでここでいくつか例を挙げてみます。
例①
これ、消火器の形をしたライターです。
この商品のPOPとして「ライターである事」の説明は必要です。
じゃないとなんだかわかんないから。
でも先にライターである事を説明してしまうとお客さんの行動は1ステップで終わります。
まずこの商品の意外性を端的に伝えて、意味を考えるよう誘導した上でライターだと気づかせられれば2ステップ。
2ステップ目がある事で「お客さん自身が気づく」という構造になるので、確実に手に取る確率が上がります。
そして1ステップ目で読むまでもなく見た瞬間に確実に意味が伝わることが最重要なので、
余計な装飾なしの短いセンテンスで書く。
例②
「そこから入れるんかい!」
これも「商品の意外性をまず伝える」というパターンとしては①と同じですが、こちらに関してはだれが見ても貯金箱だという事がはっきり分かるのでそこの説明すら不要です。
さらに「見た瞬間に書いてある事が目に入るようにする」為に余計な文言は極力排除し、
「そこから入れるんかい!」という突っ込み部分以外何も書かない事で、このPOPを見たお客さん自身がこの貯金箱にツッコんでるような感覚になり、結果としてこの商品そのものがより面白く感じられるという効果もあります。
ちなみにこのPOPを説明調にすると
「豚の貯金箱といえば普通背中にお金を入れるところがあるのに、鼻をそのまま投入口にするというデザインの盲点をついた一品」
とか、そんな感じなんでしょうが、これ全て「そこから入れるんかい!」の一言で言い表せられてます。
つまり
・見た瞬間に描いてある事が目に入る
事を気にしてに書くことで「必要なことが端的に伝わる」かつ「商品を面白く見ることができる」
というメリットがあります。
というかメリットしかありません。
例③
これは我ながらなかなかひどいです(笑)
「鬼の金棒」節分用に発注したら節分後に届いたので全くやる気がないPOPです。
やる気のなさを隠そうともしてない感じですが、これはもちろん意図的なものです。
「あきらかに商品と関係がありそうな言葉だけど、直接関係は無い微妙な一言」というチョイスを、
「その言葉のみ」で「一切の説明なし」で書くことで見た人の想像力を掻き立てたり、POPそのものへの突っ込みを入れさせる余白を残してあります。多分。知らんけど。
でも本当にこの「余白」は大事で、
商品を見ようとした時に自動的に目に入ってくるPOP
を書く為に必要な「短いセンテンス」で「最低限のことだけを書く」事で生まれるこの「想像力の余白」によって、POPを見たお客さんがそれぞれその商品について考え、妄想し、楽しんで、買う事に繋がる訳です。
そしてこの「余白」の部分がPOPの面白さの本質でもあるのではないかな?と思います。
ここまで3つの例を挙げてみましたが、
① お客さんは僕らが思ってる程、熱心じゃない。
これを書く時にに意識しながら
見た瞬間に自動的に目に入るような
短いセンテンスで必要最低限の言葉で
見た人に考えさせる余白を残す
ということを考えてPOPを書けたら最高に楽しくなると思います。
② 欲しい物を買うのにきっかけは要らない→欲しくない物を買う時にはきっかけが必須
さて、皆さんは買い物に行ったら「欲しかったもの」と「欲しくもなんともないもの」のどちらを買いますか?
当前ですが「欲しかったもの」を買いますよね?でもなぜか人というのは「欲しくもなんともなかった筈のもの」も買ってしまう事もよくある生き物です。
特にヴィレッジヴァンガードなんかでくだらない物を買う時なんて「なんでこんなの欲しいと思ったんだろ?」と後から後悔というパターン、あるあるだと思うんです。
でも、ヴィレッジヴァンガードの何割かはお客様のそういう気持ちのお陰でできています。優しさでできている頭痛薬みたいなもんです。
ヴィレッジヴァンガードに限らず、人が要らん物をつい買ってしまう時、そこには必ず「きっかけ」が発生しています。
そしてヴィレッジヴァンガードはその「きっかけ」をPOPで作る事ができます。
ではまた例を挙げてPOPが「きっかけ」になる為のしくみについて説明していきます。
例④
既に説明した事と重複しますが、これも「説明を省く」事で色々な効果を狙ったものです(本当はそこまで考えてないけど)
実例で説明すると、思いついたPOPの内容が同じだとして、これをPOPが面白くなりだしたバイトの子が書くと
「ヴィレッジヴァンガード、歴代店長の亡骸です」とか、こんな感じのパターンになりがちなんですが、ここはみなまで書きたい気持ちをぐっと抑えて「ヴィレッジヴァンガード 歴代店長」で留めます。
ここで留めることで見た人が「どういう意味!?」となるので「2度見効果」が発生します。この「2度見効果」こそが「要らん物をついつい買ってしまう」際のすごく重要なポイントになります。
続いて2度見効果の為のPOPの例をいくつか挙げて、それがどう「きっかけ」に繋がるか説明していこうと行こうと思います。
例⑤
これも我ながらなかなかひどいです。
床ジョーズ……甘噛み。
意味を考えちゃいますよね。
でもこれ、そもそも商品の説明すら要らないようなレベルの物だからこそ「許される範囲で何でも書いていい」のです。
逆にこの商品の「噛む」という最大の特徴だけ伝えた上で、あとは見た人が「?」となるくらいのPOPの方が確実に2度見率は上がります。
2度見させた後に「甘噛み…?ああ、そういう事か(笑)」ってついついやっちゃうと何故か買っちゃう。
という流れに……なるのかどうかは知りませんが、このサメはとりあえず完売して再発注しました。
例⑥
アフィルです。くだらないです。実にくだらないです。
わざわざこのアヒルのPOPの為にアルフィーのスコアブック発注しました。
なんでこんなPOPにしたかって言うと
「書くことなんかないから」
です。
見りゃわかるし、アヒル。別に「アヒル 100えん」でも全く問題ないです。
もともとよく売れる商品ですし、多分そのPOPだけでもちゃんと欲しい人は買っていってくれます。
そう「ほしい人は何書いても買ってってくれる」んです。
でも「別に欲しくない人」は「アヒル 100えん」の事を見てくれません。
そんな「アヒルに用のない人」の目に
「ジ・アフィルー」
って書いてあってアルフィーの3人が揃った本がそこに置いてある。
という状況が飛び込んできたら、とりあえず2度見しますよね?
2度見したら手に取りますよね?「ちょっと、これ見てみ!アフィルーだってwww」とか言って彼女とか呼んだりしちゃって。
そしたらその彼女が「このアヒル買ってこうかなー」とか、なるかもしれないじゃないですか?
用がない人に「買ってしまうきっかけ」を提供する。
そのきっかけはなんだっていいんです。
そしてここでも
「短いセンテンスで」
「商品を見ようとした時に自動的に目に入ってくるPOP」
という基本が効いてきます。
ここまでが「欲しくないものを買ってしまうきっかけの為のPOP」の話ですが、
実はこの話の一番重要なポイントは
「欲しくなかった筈のモノをついついPOPに騙されて買ってしまったお客さん」は、
確実にあなたのお店のファンになってくれる。
という事です。
だからこの「きっかけを作る為のPOP」はとても大事なのです。
③ 誰が見ても分かってる物なら、ただ印象を残すだけでいい
ちょっと先程のアヒル(アフィルー)のPOPの話と被るのですが、
「誰が見てもその商品が何なのか分かるし、極端な話商品の値段さえ分かれば困らないし、それでも別に売れちゃうんだよね」
と言うようないわゆる定番的な安定の商品、ありますよね。
まぁぶっちゃけ値段と商品名くらいでもいいと思うんです、僕も。
でもそればっかりだといくら定番商品だからと言っても「うちで買っていただく理由」にはならないんです。
そんな時、POPの力で「あの商品はヴィレヴァンに置いてある」と記憶の片隅に残してもらえれば、
またほしくなった時に来てもらえたりする訳です。
例⑦
これ、レジ前のミサンガです。200円の。
ミサンガ、値段以外にもう書くことなんかないですよね?
いや別にそれでもいいと思うんです。値段と「ミサンガ」って書くだけでも。
ただ「たまたまミサンガについて書けそうな事を思いついた」からミサンガにこんなPOPをつけただけです。
別にに何でもいいんですが、ここで言いたいのは
こういう定番的で僕らが見慣れてしまった商品にも、たまにはアクセントとして
「短いセンテンスで」
「商品を見ようとした時に自動的に目に入ってくるPOP」
で、印象に残るPOPを採用していく事が意外と大事。
という事です。
この手の「僕らはもう見慣れてしまった商品」でも、こういった意外な視点の一言POPをたまに追加することでお客さんの印象が新鮮なものに変わる筈です。
そうなれば、今回は買っていただけなかったとしても確実に記憶には残してもらえます。
あと
「見れば何か分かるもの」
の、印象を強める為のテクニック(?)として
「意識的に商品名は書かない」
というものがあります。
例⑧
サンマチョコです。
サンマチョコは「一見サンマに見えるパッケージ」の、チョコです。
ヴィレッジヴァンガードではもうバレンタイン時期の定番となっていますが、これに関してはもう
「商品じたいが出オチ」
みたいなモノなので、POPで下手に説明してしまうと逆につまらなくなります。
(こういうのを個人的に「POP殺し系」商品と呼んでいます)
なので、商品のことに一切触れずに「商品の意味」の部分とかだけを抽出してあげたりする
例⑨
これもそうですね。
定番の激辛ペヤング。
激辛って書いてあるんだから辛いのはわかってます。
辛い物を普通に「辛い」とアピールするより方向を変えた方が印象には残りますね。
しかも誰が見ても嘘ついてますから、2度見効果も抜群です。
例⑩
スーパーマンのドリンク。
これも見りゃわかるんで商品がどうとか、そんなことにいちいち触れない。
正直ギリギリアウトな気もしますが、
でもこんなんでも売れちゃうのがヴィレッジヴァンガードなんです。
定番的に売れちゃう商品や見ればわかる商品のPOPは、売ることよりもインパクトを重視して構わない
と思ってもらって大丈夫。
コンプライアンスの範囲内で暴走していきましょう!
④ 「個」を出さない。
さて。ここまで色々と実例も混ぜて話してきましたが、これで最後です。
そして、ここが一番説明しずらい部分でもあります。
ちょっとここで突然話変わりますが、こないだ用事があって近所のホームセンターに行ったんです。
季節なんで、入ってすぐのところに扇風機がドカ積みされてて、そこに
「店長オススメ!」
ってでかでかとPOPが付いてて。
別にね、ホームセンターの店長さん扇風機マニアじゃないと思うんですよ。
100歩譲って仮に扇風機マニアだったとして、だったらこんな特価の扇風機じゃなくてすごい高機能の扇風機とかお勧めしてると思うんですよ。
この「店長オススメ!」ってPOP、世の中でごく普通に使われてるけど、これって「その店長さんがお勧めする意義」がないと本来成り立たないと思うんですよね。
例えばおいしいレストランで「本日のシェフお勧め」だったら分かります。
作った人が今日はこれがおいしいよって言ってるんなら、食べてみようかな?と。
でも、「一般の小売店の、しかも既製品を売ってる店の店長さん」に、みんなそんなに興味ないですよね?
つまり「店長お勧め」「スタッフおすすめ」に限らず「個人」をいきなり出してくるようなPOPって基本的にはあまり意味がないです。(例外ももちろんあります。あえて個を出して売るというパターンもありますが、これはむしろ特別な事だと認識した方がいいと思います)
と、ここまで話したところで本題。
例⑪
本のPOPなんですが、「僕も」と書いてありますね。
一見個人的な事を前面に出したPOPのように見えますが、実はここで敢えて「僕」という1人称を使う事で、特定の誰かというイメージに結びつかないよう気を使っています。
このPOPを見たお客さんが感じる「僕」は、「なんとなくイメージしたこの店の誰か」くらいのぼんやりしたものの方が好ましいからです。
そこの「ぼんやり」という「想像力の余白」によって、POPを見たお客さんがそれぞれその商品について考え、妄想し、楽しんで、買う事に繋がる訳です。
逆に「個」がPOPの前面に出てしまうと、そこに「ぼんやりとした余白」が入り込む余地ができません。商品を見て、思うことが限定されてしまうとそこから先がなくなってしまうのです。
ヴィレッジヴァンガードで働く人って、色々好きなものがあったりして、POPを書くことも好きだったりして、その流れでついついPOPに「自分」を出してしまう事、あると思います。
ちょっと嫌な言い方になってしまいますが、
「POPは自己表現の為には存在しない」
という事を必ず心に留めておいて欲しいです。
なんだかんだで、POPは楽しい
ごちゃごちゃと書きましたが、ヴィレッジヴァンガードで一番楽しい仕事は、POPだと思います。
ヴィレッジヴァンガードのスタッフにしか書けないPOPがあります。
ヴィレッジヴァンガードという空間だからこそ許されるPOPがあります。
ヴィレッジヴァンガードだからこそ面白いと言ってもらえるPOPがあります。
お客さんよりPOPを楽しめるようになったら、一人前です。
それじゃ、真剣にふざけよう!
※こちらの記事は2021年に掲載された内容を加筆修正したものとなります。
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