銀河鉄道の夜とアタゴオル
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と言えば、誰もが知っているといっても良いくらいの名作ですが、80年代育ちには『銀河鉄道の夜』といえば、青とピンクの猫の少年が主人公のアニメ版!という方、多いのではないでしょうか?
監督は杉井ギサブローさん。音楽は元YMOの細野晴臣さん。
そしてキャラクターデザインと原作漫画が、ますむらひろしさんです。
『銀河鉄道の夜』原作では登場人物は猫ではないのですが、
アニメ版や、ますむらさんの漫画版ではおどろくほどにハマっています。
ますむらひろしさんの著作には、ライフワークともいえる『アタゴオル』シリーズという作品群があります。
アタゴオル、ヨネザアドといったイーハトーブに通じるような、日本語ベースながら不思議な響きの名前の世界では、直立し人語を話す猫たちが豊かな世界を営んでいます。
賢治の内面世界の理想郷イーハトーブを反映した、ますむらさんのイマジネーションあふれる世界アタゴオル。そこからさらにフィードバックされた宮沢賢治世界ゆえに、猫の登場人物が自然に感じられるのでしょう。
とまあ、銀河鉄道の夜も、アタゴオルシリーズも、いくらでも語れそうなくらい魅力的な作品なのですが、今回僕がイチ推ししたい作品は『グスコーブドリの伝記』(2014年のアニメ映画版及び漫画版)です。
グスコーブドリの伝記
2014年公開のアニメ映画『グスコーブドリの伝記』は、1985年のアニメ映画『銀河鉄道の夜』と同じく、杉井ギサブロー監督と、ますむらひろしさん漫画原作及びキャラクター原案の作品です。
映像を見て一目瞭然、アニメ版『銀河鉄道の夜』と地続きといえる世界感なのですが、30年間のアニメ技術の向上により、感触はそのままに一層クオリティの向上した世界を味わうことが出来ます。
途中直接的に、アニメ版『銀河鉄道の夜』世界がつながる、原作にはないファンサービスのようなシーンもあるので、前作のファンにはぜひ観てほしい作品です。
『グスコーブドリの伝記』原作は、農芸学者、農民としての経験や東北の厳しい風土や飢饉など、宮沢賢治の実体験が色濃く反映した作品といわれています。
僕はアニメ映画版を観たのちに漫画版を読み、原作も読んでとハマったその二年後に、偶然岩手に異動し二年間暮らしたのですが、そこかしこで『グスコーブドリの伝記』や、その他宮沢賢治作品の世界を感じました。
『グスコーブドリの伝記』と岩手
宮沢賢治ゆかりの地は観光化されている場所が多く、好きで巡ったこともあり、それは賢治を感じるのも当然ではあるのですが、例えば柳田国男『遠野物語』で有名な遠野の地に観光に行き、オシラ様伝説や養蚕業の歴史の記録に触れる時、『グスコーブドリの伝記』に出てくる、冷害に会った後に養蚕で生計を立てるエピソードが、鮮やかで幻想的なアニメのシーンが浮かびました。
同じく『遠野物語』に出てくる人さらいの話などは、『グスコーブドリの伝記』冒頭で、ブドリの妹ネリを背負ったかごに放り込んでさらっていく男と重なります。
『遠野物語』に収集されたのと同じ土地の記憶が、宮沢賢治作品にも流れているのを感じます。
一関市の『石と賢治のミュージアム』を訪れた時には、併設する旧東北砕石工場で、石灰石を採掘し、農業生産を向上させるための土壌改良剤をつくる技師として、晩年の賢治が身体を壊しながらも働いたという話に触れ、ブドリの奮闘を思い出しました。
漫画版『グスコーブドリの伝記』のあとがきは、賢治の生き方に思いをはせる、ますむらひろしさんの叙情性豊かな文章がとても素敵なのですが、自分の足でゆかりの地を歩いてみて、より味わい深く感じることが出来ました。
最後に、文中で触れた施設をご紹介
遠野地方の、かつての農家の生活様式を再現した展示や保存された資料を観たり、実際に体験したりできる施設。中でも圧巻は千体のオシラ様を祀る「御蚕神堂」。オシラ様は養蚕の神様でもあります。
宮沢賢治作品に数多く登場する鉱石の展示をメインにした施設。
建物や周辺の敷地自体が魅力的な造形で、歩き回っているだけで楽しくなります。
お隣には、賢治が晩年旧東北砕石工場の建物が保存されています。
写真は敷地周辺と、宮沢賢治作品世界を重ね合わせたようなイメージイラストのポストカード。
お土産におすすめです。
岩手に観光で立ち寄る機会があれば、ぜひ予習にアニメ映画版『グスコーブドリの伝記』を観たのちに、漫画版をお供に歩き回ってみてください!!
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