【好きな作家について語る】綾辻行人編 その2

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推し作家について、続き書いてもいいって会社の許可が出たよ。
どうも、片田舎のヴィレヴァンで本棚いじってるスタッフです。
前回の記事の紹介ツイートが先生に補足され、めっちゃビビってます。え、まじで? どうしよう。……どうしよう!

ということで、今回からは作品について語っていきたいなと思っているわけですが、ええまあ、『今回から』って書いてますからね、しばらく続けますよ、会社の許可が出れば。
よろしければお付き合いくださいませね。

そんで、最初ご紹介しますのはもちろん『十角館の殺人』。
ミステリ読みのマナーとして、できるだけ物語の核心には触れないよう、ネタバレに配慮して書くよう努めますので。

目次

『十角館の殺人』とは

デビュー作にして代表作。
国内ミステリ界において「新本格」というムーヴを引き起こすにあたったきっかけの一作。

ノベルス、文庫、文庫新装改訂版、愛蔵版などなど、いろいろ出ておりまして、私、実は十角館、家に五冊あるんですよね。バージョン違いで。記事のヘッダの写真、自前の本です。
限定愛蔵版買ったとき友人から、「え、犯人が変わるわけじゃないんでしょ?」って言われましたからね。
変わってたまるかい。

現在書店で手に入るのは講談社文庫『十角館の殺人〈新装改訂版〉』。
綾辻行人って名前は聞いたことあるけど読んだことない、ミステリをちょっと読んでみようかな、という方はまずここから入りましょう。

舞台

大分県の沖合にある孤島、角島。訪れた先の無人島で事件が起こるという、いわゆる、嵐の孤島もの。
脱出手段がない、連絡手段がない、完全に取り残されてるやつ。

携帯電話やインターネットが普及していない時代はこの手の密室がまだ作りやすかったんですが、最近はスマホあるやん、ネット通じてないんかい、といろいろ突っ込まれてしまうので、ミステリ作家の方々もたいそう苦労していると思います。
いろんな設定を付け加えないと、今は嵐の孤島も吹雪の山荘も自然に成立しないんですよね。
いやまあ、嵐の孤島や吹雪の山荘という状況が自然かどうかはおいといて。
もちろん、現在を舞台にしたものでうまく作ってある作品もたくさんあるので、それはまた別の機会にでもご紹介したいところです。
この作品も三十年以上前に書かれたものですので、時代を踏まえたうえで読んでいただければ。

あとどうでもいいですけど、山口県民としては島の名前がね、角島ってだけで親近感わきますよね。
うちの県にある角島は「ツノジマ」じゃなくて「ツノシマ」ですし、無人島じゃないですし、ちゃんと橋かかってますけど。
角島大橋、晴れた日に車で走るとめっちゃ気持ちいいよ。絶好のドライブスポット。

そして、この作品、孤島側だけでなく、本土側もまた語られます。
そこが一つの大きな仕掛けとなってるわけです。

登場人物

島を訪れたのは推理小説研究会に所属する大学生たち。
各々、過去のミステリ作家の名をあだ名として踏襲しているという設定。
なので、島側では「エラリィ」だとか「アガサ」だとかで呼び合っているわけですね。
ミス研に所属しているキャラクタたちということで、殺人事件だとかそういう物騒な話には食いつきます。
島を訪れた理由もかつて事件があった場所だから。

本土側にも同じく大学生が出てくるわけですが、学生の行動力、調査力はたかが知れている、という理由からかどうかは分かりませんが、警察等々からの情報窓口として、お寺の三男坊が登場します。
そもそも事件が起こっているのは島で、そちらから情報は入ってこないはずなのに、なんで本土側で動いている人物がいるのか。
そこは犯人の仕掛けが効いている部分なのですが、読者に違和感を抱かせることなくうまく組み込んであって、読むたびにすごいなぁ、と思っております。

島には建築家中村青司によって建てられた館がありまして、これがまた正十角形の形をしたなんとも奇抜な館なわけです。その名も『十角館』。
正十角形のホールを中央に、その周りを十個の等脚台形がぐるっと囲んでる、という建物。これね、見取り図見てもらったほうが早い。語彙力ないからうまく伝えらんない。
タイトルにあるとおり、この十角館を舞台にして殺人事件が起こります。
ちなみにその島にはかつて中村青司が住んでいた青屋敷という建物もあったのですが、悲惨な事件の末全焼。今は焼け跡が残るのみ、と。

中村青司は、自分が設計した館に隠し通路や隠し部屋といった仕掛けを施すのが好きという特殊なタイプの建築家。
「隠し通路とか隠し部屋なんかあったら推理小説としてなりたたんじゃん」とか思ってた時期もあったんですが、前提として提示されたうえで話が展開していので、別にアンフェアでもなんでもないんだよ、と子どものころの自分に教えてあげたいです。

建築家中村青司の名前とその館の特殊性は、この先の館シリーズを読むにあたって大前提となるのでしっかり覚えておきましょう。

殺人事件とそのトリック

ミステリと一口に言っても事件内容はいろいろありますが、この作品はタイトルどおり殺人事件が起こります。
嵐の孤島で一人ずつ死んでいく、巨匠アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』形式。
すべてが終わったあと、外部から事件現場に乗り込んでも、皆死んでしまっていて、誰が犯人かすら分からない。

ミステリを読まれたことのない方は、どういうこっちゃ、となるでしょう。
記事を書いててもどういうこっちゃ、って思ってます。
殺人が起こっているんですから、それが自殺ではないかぎり、必ず犯人はいます。
もし自殺者がいるのなら、その人物がほかのひとを殺したうえで自殺したということになり、つまりは犯人である。
それなのに自殺者さえ見当たらない、つまり犯人が見当たらない。
ここに組み込まれているのはいわゆる「叙述トリック」です。

叙述トリックとは、ざっくりいえば文章表現によって読者を騙すというもの。
嘘を書いているわけじゃないんですよ。事実を書いてないだけ。
子どもだと思わせておいて実はお年寄りだったという年齢トリックだとか、男だと思わせておいて実は女だったという性別トリックのようなものですね。

ただこの叙述トリックは、作者vs読者という対立になりまして、作中の事件内での犯人vs探偵(警察)という対立にはあまり役に立っていないこともしばしば。
そりゃそうだよ、文章から読者が勝手に若者だと思い込んでも、実際に見たら若いかどうかなんてだいたい分かるもん。よしんば一見で分からなくても、警察が調べたら一発でばれるもん。
なので叙述トリックのある作品で重要なのは、読者を騙すためのトリックだけにしないこと、だと思います。

この『騙し』が我々読者に対してだけでなく、作中の探偵(警察)に対してもきちんと効いているのが、『十角館の殺人』の素晴らしい点です。

自論なのですが、『そして誰もいなくなった』形式のミステリで最大のポイントは、「その犯罪の真相が犯人の自白以外に寄って得ることができない」ことだと思っております。一点のほころびもない完全犯罪。
つまり我々がそれを知ることができるのは、犯人の恩情、あるいは良心、あるいは顕示欲、承認欲求がゆえのことなのです。

この物語もそういう形式で種明かしをされるのですが、その一つ前の段階で読者にだけ分かるかたちで犯人が「自白」する一文があります。
あの一文あの一言
読んだことあるかたにはどの部分を指しているのか分かっていただけるかと。
「小説の代金は最後の一文を読むために支払う」とは確か森博嗣がどこかで書いてた言葉だったと思うんですが、『十角館の殺人』は確実にこの一文のために代金を払ってますね。
綾辻行人のいう、「ネガとポジを反転させる一文」です。

コミカライズ

この『十角館の殺人』、2019年に清原紘の手でコミカライズされております。
原作を読んだことのある方は、あのトリックをどうやって、と思われるでしょう。
私もコミカライズの情報を見たときは、どうやって、と思いましたとも。
そこをね、めちゃくちゃうまく表現してるんですよ。小説は文章ならではのトリックなんですが、漫画のほうは漫画ならではのトリックになっていて、推理もの漫画をあまり読まない私でも思わず唸ってしまいました。
そりゃもう、江南くんが江南ちゃんになってることなんか、気にならなくなるレベルで。

コミカライズでは原作では男だったキャラが女の子になってましてね。
まあ、原作のまま絵にすると本土側はおっさんと男子大学生ばっかりになるんで、めっちゃ華がない漫画になってたんじゃないかと。
完結記念のトーク配信でも清原先生と綾辻先生がいろいろおっしゃってましたが、江南ちゃんに女性としての色や、恋愛的な面を組み込まないあたりは意図してのことだったそうで、原作をとても大切にしてコミカライズされた作品に仕上がっていると思います。

講談社から全五巻で発売中ですので、活字読めないけど漫画なら読める病の方はこちらをどうぞ。

まとめ

さてさて。ここまで『十角館の殺人』について語ってきたわけですが、いかがでしたでしょうか。
ちょっと読んでみようかな、と思ってくださったかたがおひとりでもいれば、記事を書いた甲斐があるというものです。

ネタバレしないよう気にしながら書きましたので、十角館履修済み、ミステリファン、綾辻ファンからすれば、なんとも当たり障りのない、ぼやっとした記事になってるんじゃないかしら、と心配ではありますが。
まあミステリ読みにとってネタバレはもっとも忌むべき行為なんでね。そこは仕方ない。

綾辻行人作品を読むなら入り口はいくつかありますが、館シリーズを読むなら『十角館の殺人』から。

それでは今回はこのあたりで。
次回はそのほかの館シリーズについて書きたいと思います。

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この記事を書いた人

本読み。
新本格好きのSF初心者。

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