大人になったら子供になりたかった【第1回】

”大人になったら子供になりたかった”
昔、何かの本で見かけた以来、ふとした時に頭に浮かんでくる。
いつまでもそんな気持ちで生きていられたらと、この素敵な言葉を大切に想っている。

私の息子は今年の春に高校生になり毎日、友達との時間を謳歌している。
たまの飯の誘いにも良い返事は貰えず、親としては寂しいが自分もそうであったように10代の時間というのはかけがえのないものだ。
特に例の感染症で中学校生活の殆どに行動制限があった彼と彼の友達には少しでも止まった針を進めて欲しいという願いが強い。
Boys be ambitious！少年から青年になっても志を高く持つ事を忘れないでいて欲しい。

前置きが長くなったがかくいう私といえば中年真っ盛り。
志なんてとっくのとうに皆無であるに加え、何気ない生活の中で無意識に摩耗され削られていく日々である。
そんな中で数少ない楽しみと言えば2週間に1回ほど決まった友人と集まっての食べ飲み歩きだ。
Twitterで見た居酒屋やGoogleの口コミが高い飲食店に出向いては食べた料理なんかを写真に撮ってTwitterとGoogleの口コミに投稿する。
決して上手な写真ではないのは自覚しているが、それでも自分なりに画角や色味にもこだわって投稿している。
自分がその店に行くきっかけになった投稿をしてくれた方への届かないお礼と共に、私の投稿で見知らぬ誰かがその店に来店してくれたなら良いなと思っている。

さながらリレーのバトンを渡すような気持になれるので私はこの一連の行動が好きだ。

神田　珈琲専門店エースの元祖のりトースト

この日はいつもの決まった友人（K君、Dさん、Mちん）と秋葉原のサウナ施設にいく事になった。
※友人の紹介は今後の話で少しずつしていくつもりなので今回は割愛させて頂く。
少ない休みの中でそれぞれ予定を調整して集まってる事もあり、我々の朝は早い。
秋葉原のサウナ施設が10:00オープンと知るやいなや、近隣で朝食を食べれないかという話になりどこで食べるか決まらぬうちにとりあえず集合時間を8:00と決めた。
その後、いくつか候補は挙がったが最終的に秋葉原から歩ける神田付近で朝食をとろうとなった。
イカゲソ天ぷらがどーんと乗った蕎麦が有名な立ち食い店と、のりトーストが有名な珈琲専門店エースの2択に絞られ決選投票を行ったが、イカゲソ天蕎麦1票：のりトースト3票という結果であった。
唯一、イカゲソ天蕎麦に投票した柔道経験者の友人Dちんは、「蕎麦もトーストも軽いから両方食えばいいでしょ！」と声高に主張していたが、人の3倍ほどの食欲がある彼の意見など誰も聞くはずはなかった。

店構えからして名店だという事が伝わる雰囲気のある佇まいである。
早速、入店すると店内は8:00すぎとは思えないほどに込み合っておりそれと同時に珈琲の良い香りが鼻に入ってきた。
ゆっくりと着席し、メニュー表を見ながら店内を見回した。
慌ただしく配膳をしている初老の夫婦が店員さんだろう。
我々は急ぎの客では無い、流れを遮ってのオーダーなどもってのほかである。
着席して程なくするとお水とおしぼりと共にオーダーを訊きにきてくれた。
注文はもちろん、目当てののりトーストだ。併せてアイスコーヒーも注文した。

トーストにのりとバターを塗り挟んだシンプルなメニューながら、なんとも言えない趣がありメニュー表を眺めているだけでウキウキした気持ちになる。
オーダー後のこの待ち時間さえ愛おしく感じるほどだ。

急にこの友人たちとこの時間を過ごせている事への幸せが押し寄せて、
”大人になったら子供になりたかった”、あの言葉を思い出した。
大人になった今、子供の時に経験したこの何とも言い難い感覚を味わえる瞬間はそう多くはない。
童心に帰るわけではなく、現在進行形のこの名前の無い感覚は私にとってかけがえのないものである。
のりトーストが配膳されるまでのエアポケットのような、ほんの数分。

肝心の味はと言えばご想像の通り。
サクッとしたトーストにほのかなバターとのりの塩っけが合わさり美味しかった。
アイスコーヒーはブラックと思っていたがシロップが入っていて驚いた。
だが、のりトーストと合わせて頂くと不思議な組み合わせで癖になった。

その後、我々はサウナ施設に行き休日を謳歌した。

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