【好きな作家について語る】綾辻行人編 その5

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どうも、片田舎のヴィレヴァンで本棚いじってるスタッフです。
めちゃくちゃ好きな本が売れたとき、買ってくれたお客さんに話しかけたいけど、コミュ障なんで何も言えず。代わりにめっちゃいい笑顔で「ありがとうございました!」って言ってます。

綾辻行人について語る記事、五回目の今回はホラーなの? ミステリなの? といまだにジャンルがよくわからない、『囁き』シリーズをご紹介しようと思います。

目次

『囁き』シリーズとは

祥伝社のノン・ノベルレーベルから刊行された三作。

『緋色の囁き』1988年10月
『暗闇の囁き』1989年9月
『黄昏の囁き』1993年1月

現在は講談社より新装改訂版が文庫で出ております。
冒頭でホラーなの、ミステリなの、と書きましたが、ホラーだと言い切ることはできず、どちらかといえばやはりミステリなのですが、館シリーズほどミステリしてないといいますか。
サスペンス色が混ざってきているタイプのシリーズです。
ただ、個人的な印象ですが(てか、一連の記事内容はすべて個人の感想ですがね)、綾辻行人という作家の「色」がものすごく出ているシリーズだと思っております。

シリーズは三作ほどですので、一作ずつ紹介していきましょう。

『緋色の囁き』

囁きシリーズ第一弾。
十角館でデビューする前にはおおよそ書き上げていたそうですが、一作目とテイストが違いすぎるため、作家綾辻行人のイメージをきちんと作ったあとに発表すべきだろう、という判断のもとちょっと寝かされていたそうです。

舞台は全寮制の女子高。いわゆるお嬢様学校に転校してきた主人公。
一般常識からすれば考えられないほど厳しい校則のある学校、同じような口調、仕草で「お嬢さま」ごっこをしているクラスメイトたちに不安と違和感、恐怖を抱いていたところ、同室であったクラスメイトが「開かずの部屋」で焼身自殺を図る。その部屋は三十五年前に「魔女」が焼け死んだと言われる部屋で――。

「赤色」「血」をキィワードにして主人公を苛む悪夢。
周囲の異様な状況に加え、自分のなかに潜んでいるかもしれない「何か」に怯える彼女。
主人公である女子高校生視点で語られる物語で、ぽつぽつと彼女の心理が入り込む文章なのですが、(カッコ)で挟んであるそれらがまた、ひどく不安定で、不安感がとてもよく伝わってきます。

さらに重なる殺人、三十五年前の事件の真相、主人公が忘れてしまっている過去。
それらが組み合わさって至る結末。

この物語、読むべきは最後の数行です。
ここに小説の代金分すべての価値が詰まっている。
この数行を読むためだけに今までのページをめくってきたと言っても良い。

物語の「結末」ではなく「オチ」というべき数行。
読み終わったあと、全力で「いやいやいや!」とツッコミを入れてしまう「オチ」をぜひ体験したいただきたい。

『暗闇の囁き』

囁きシリーズは基本的におどろおどろしい雰囲気の話ですが、こちらも一作目と同じくホラー要素が強め。「ミステリ」というより「ミステリー」という感じ。伝わりますかね、この違い。

主人公は静かな環境を求めて叔父の別荘にやってきた大学生と、その近くの屋敷に住む子どもたちの家庭教師である女性。屋敷の外と中からの視点で進んでいく話。

不思議な子どもたちと、不思議な死体。ひた隠しにされているもうひとりの子どもの存在。
そしてこちらの作品でも絡んでくる主人公の過去。
館シリーズでは中村青司の館とそのからくりが必須要素だったのと同じように、囁きシリーズでは主人公の忘れられた過去が必須要素と言えるかもしれません。
それが主人公に向かって囁いてくるシリーズというわけですね。

この話で一番不気味な部分はやはり登場する「子どもたち」でしょう。
子どもの幼さゆえの残酷性、狂気性。
ひとは己が理解できないものに出会ったとき恐怖を抱くものですが、恐れるが余りそれを否定し拒否したところで何の解決にも至らないのだなぁ、と思わされる作品です。

いくつも織り交ぜられている伏線、それらが回収されていく様子。
子どもたちの会話部分の書き方もある意味伏線だったんだろうなぁと思います。
そしてやっぱり、「いやいやいや!」とツッコミを入れたくなる最後のオチ。
いや、むしろそれ、悪化してませんかねっていう。大丈夫かしらね?

ついでに言うならこの話、綾辻作品をおおかた読んでいるひとはまず、序章の時点でこうツッコんでるはずです。

なんで双葉山に行ったんや……と。

本筋とはあまり関係のないツッコミではありますが、双葉山が駄目な理由については次回の記事で説明しようかと。

『黄昏の囁き』

シリーズ三作のなかでは一番「ミステリ」している作品。

舞台はとある地方都市。
地名や人名が緋色、暗闇とリンクしているので、囁きシリーズは同じ世界での物語になります。

突然舞い込んだ兄の訃報に実家へと戻ってきた大学生が主人公。
事故だとされている兄の死は、実は自殺なのではないか。あるいは誰かに殺されたという可能性もあるのではないか。
兄への後ろめたさ、申し訳なさ、自己嫌悪を抱えたまま、兄の知人とともに死の真相を調べている途中、さらに起こる殺人事件。

今作も当然、主人公が忘れてしまっている過去が物語のキィとなります。
凄惨さで言えば一作目『緋色の囁き』のものが一番でしょうが、忘れてしまった過去がちょくちょく現実に入り込んでくる様子、その不安定な描写は三作のなかで『黄昏の囁き』が一番。
こう、思い出しそうで思い出せない気持ち悪い感じ。言葉で言い表しにくいそれを、文字でここまでうまく表現できる作家はほかにいないと思います。

中盤で大まかな過去を思い出し、ああこれで解決に向かうのかと思いきや、そこからまた一転、二転する物語。
そして終盤でようやく主人公が思い出せたある一つの事実
このあたりの展開と、意外な犯人という点で、三作のなかでは一番ミステリっぽいな、と個人的には思ってます。





新装改訂版のあとがきで、囁きシリーズはAnotherシリーズに至る道だった、と書かれおります。
確かに『Anotehr』を読んだとき、雰囲気は囁きシリーズに近いな、と思いました。
館シリーズとはまた違うタイプの囁きシリーズ。
記事冒頭にも書きましたが、どちらかと言われたら、綾辻行人という作家の色がより強く出ているのは囁きシリーズのほうではないかな、と思っております。
ミステリなんだけれどちょっとホラー。
ばさばさと謎を解決していくのではなく、真相に至っていてもじんわりと残る不安感、不気味さ
三作だけですので、ぜひ『緋色の囁き』からご一読を。






さて、囁きシリーズ三作を紹介しまして、今回はここまでといたします。
推し作家綾辻行人について勝手に語ってきた記事もこれで五回目。
次回、今までの記事で書いた三シリーズ以外の作品について語らせていただいて、一旦最終回。
もうしばらくお付き合いいただけると嬉しいです。

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この記事を書いた人

本読み。
新本格好きのSF初心者。

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