【23年ぶりに文庫化したミステリについて】

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どうも、片田舎のヴィレヴァンで本棚いじってるスタッフです。
積ん読が溜まりに溜まって積み上がってるんですが、まあ「積ん読」なので積み上がってる状態が正常だよなって思います。……正常だよな?

本を読むのが好きな私ですが、メインは国内ミステリ、それも新本格をこよなく愛しております。
「新本格」というジャンル、ムーヴ自体を語り出すと長くなってしまうので割愛いたしますが、ざくっといえば綾辻行人以後の国内本格ミステリ作品がそう呼ばれています。

講談社、東京創元社から出版されている作品が多く、そのあたりを読んでいくと行き当たるのが「メフィスト賞」受賞作。
講談社刊の小説雑誌『メフィスト』にて公募されていたものですが、いろいろな点でほかの文学賞とは異なった形式であり、それがゆえに受賞作は奇抜なものが多い賞です。
ちなみに、化物語シリーズの作者西尾維新もメフィスト賞受賞者のひとり。

今回紹介させていただく小説も、そのメフィスト賞を受賞したもの。
第十七回メフィスト賞受賞作『火蛾』古泉迦十。
2000年に発行されたこの作品をテーマに記事を書くにはもちろん理由があります。
それは2023年5月に『火蛾』の文庫版が発行されたから。
実に23年の時を経て文庫となった一作なのでございます。

そりゃネットニュースの記事にもなるわな。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000005123.000001719.html

目次

作者、古泉迦十について

謎なひとです。
1975年生まれということしか分かりません。
なによりこの方、『火蛾』以降、まったく作品を世に出してらっしゃらない。

思い出したときに、「そういえば『火蛾』の古泉迦十ってほかに何か書いてないのかな」と過去調べたことはあったのですが、いつ調べても何度調べても『火蛾』以外の作品はヒットしませんでした。
この一作で終わりなのかな、とそう思っておりました。
もう古泉迦十の名前は、新本格ミステリを論ずる文の中でしか見ることは叶わないのだ、と。

そう思っておりましたとも、二か月前までは。

『火蛾』とはどんな小説なのか


舞台は十二世紀の中東。
イスラーム神秘主義を題材とした物語。
イスラーム神秘主義の行者が巡礼の途中で聖者に会い、導かれるまま《山》へ向かう。

ミステリ以外をあまり読んでいないので言い切ることはできませんが、国内小説のなかでイスラム教を取り扱っているものって少ないのではないでしょうか。
ましてやミステリと融合させた作品はこの一作のみかと。
正直メフィスト賞だからこそデビューできた作だと思います。

私は生まれも育ちも日本で、海外に行ったこともありません。
特定の宗教に属しているわけではなく、多くの日本人らしく、神社にお参りをしつつふわっと仏さまを拝んでいるタイプです。
ですので、冒頭を読み、イスラム教関係の話だと分かって、少々とっつきにくさを感じていたことは否定しません。
正直に言えばノベルスを買って二、三年積んでたくらいです。
ただ、決して難解な文句が並んでいるわけではないので、読みにくくはないです。
むしろ分かりやすくて読みやすい文章じゃないかな。

またイスラム教に詳しくなくても、話の邪魔にならない程度に解説は入っているので、まったく理解できないまま進むという心配はありません。
書かれていることが正しくイスラム教の教義、神秘主義の目指すところを表しているのかどうかは私に知識がないため分かりませんが、作者が言わんとしていることは分かりやすく説明されていると思います。

というか、伝わるように説明をしておかないとこの物語は成り立たないんですよね。
なんでかって、ある程度イスラム神秘主義のことが分かっていないと、結末が理解できないから。
そういう点ではある意味「特殊設定ミステリ」とも言えるでしょう。
我々が持つ一般常識からずれた世界で起こった事件を、その世界独自のルールのなかで解決に導く、「特殊設定ミステリ」。
これは「特殊設定」の部分を読者に理解してもらっていないと成り立たないジャンルです。


導師ハラカーニーに教えを請うものだけが生活している《山》で起こった殺人。
そこにいるのは主人公のほかに三人の行者。
至聖に通ずるための修行の一環として《隠遁(ハルワ)》(ひとり修行に専念すること)を徹底している彼らはお互いにやりとりもほとんどない。
《清貧(ファクル)》を貫いているため奪うものもないというのに、いったいなぜ殺人が起こったのか。
誰が彼らを殺したのか。


ミステリというからには事件には合理的な解決が必須だ、と思われる方には少々不向きな作品です。
読み終えた感想を正直に言えば、そもそもこの殺人に合理的な説明を求めてもなぁ、という気持ちでいっぱい。
そして何より、こうして言葉を使い、文章にして感想、考えを残しておくことにものすごく抵抗を覚えるようになってしまいます。
それがなぜなのか、気になる方は読んでみていただければ。
この物語が、詩人であり作家であるファリードが、とある聖者についての取材のために話を聞いているという形式であることも大きな意味があったことなんだなぁ。

本筋からは外れますが、この作品、途中でちょろっとだけシーア宗ニザール派についての言及もあります。
開祖は《山の長老》ハサン・サッバーフ
ノベルスを読んだ当時は知らなかったため流していましたが、 Fate/Grand Orderをちまちまプレイしている今は思わずテンション上がってしまいましたね。
初代さまのことじゃん!
「暗殺者」「アサシン」の由来となった一派のことは、イスラム教の歴史を辿ろうと思えば避けて通れないのかもしれません。

『火蛾』の評価

『火蛾』が発売されたのは2000年。
その年末に発表された各種ランキングでの評価はこちら。

本格ミステリこれがベストだ!(探偵小説研究会他、東京創元社) 2001年版 1位
本格ミステリ・ベスト10(探偵小説研究会編、原書房) 2001年版 2位
週刊文春ミステリーベスト10(文藝春秋) 2000年版 10位
このミステリーがすごい!(宝島社) 2001年版 14位


古泉迦十 Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E6%B3%89%E8%BF%A6%E5%8D%81

おおむね高い評価を得ていることが分かります。
当時はランキングをチェックすることがほとんどなかったため、私自身はその記憶がないんですよね。
そこそこ評価を得ていることを知らないまま読んで、それでも面白いじゃん! と思った作品でした。

なぜ今になって文庫になったのか

文庫落ちするニュースをTwitterで知ったのですが、目にしたときリアルに「マジかよ」って声が出ました。
いやだって、『火蛾』だよ?
『火蛾』以降まったく音沙汰のなかった古泉迦十だよ?
今、文庫化? マジで???

遊べる本屋の店員なので、店の売り上げ貢献のため、欲しい本は自店で買うようにしてるんですが、ごめんなさい、この本はどうしてもすぐ欲しかったんで別の書店で買いました。我慢できなかった。

上に掲載してる本の写真、まあ私物を撮影してるんですが、文庫の帯にご注目ください。
本の内容より先に目に入ってくる謝罪。どうなのこれ。

文庫のほうには書評家佳多山大地氏による解説がついているのですが、佳多山さんもなぜ今になって、と不思議がっておられましてね。思わず笑っちゃったよね。
基本あとがきや解説、書評をあまり読まないタイプの人間なのですが、佳多山大地氏は新本格ミステリについて書かれた著書を読んだことがあるので存じておりました。
その著書のなかでも『火蛾』の名前はあがっており、佳多山さん、『火蛾』お好きなんだなぁと思っていたので、解説でお名前見かけてさもありなん、と。

余談なのですが、佳多山大地著『新本格ミステリを識るための100冊』(講談社)であげられているうち、四割程度しか読めていなくて愕然としてしまったことを告白しておきます。
これはだめだ、新本格好きを名乗れない……!
時間を作ってゆっくり攻略していきたいところ。
読みたい本がたくさんあるのは、それはそれで幸せなことでもありますね。

そして、その解説の最後にも追記されておりましたが。
古泉迦十、二作目、出すらしいよ。
文庫のプロフィールに書いてありました。
星海社より出版予定だそうで。

今になって『火蛾』が文庫になった理由、それかぁ……!!!

いつ発行なのかは分かりませんが、とりあえず正座して良い子で待っていようと思います。

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この記事を書いた人

本読み。
新本格好きのSF初心者。

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