神絵師の系譜
近年ネットでは『神絵師』と呼ばれる絵描きさんたちのイラストが百花繚乱の様相で、僕のような古い世代のサブカルおじさんは、すごい時代になったものだ、と圧倒される日々です。
ネット発の、神絵師さんたちのイラストは次々と画集になり、ヴィレッジヴァンガードでも大人気。
コラボさせ頂いたりと、おおいに盛り上がっています。
中でも主流の画風は一般的に『アニメ絵』や『萌え絵』と呼ばれるジャンルで、その画風のルーツには、明治・大正期の少女雑誌から昭和の少女漫画を経た流れがあると言います。
今回は、その元祖神絵師とも言える少女雑誌で人気を博したレジェンドと、現代の神絵師たちの中間点に位置するのではないかと僕が思う、
画家の金子國義さんについて語りたいと思います。
少女雑誌文化と猟奇耽美文化の交わるところ
明治・大正・昭和初期の少女雑誌で人気を博したレジェンド絵師といえば、竹久夢二、高畠華宵、中原淳一、が3強ではないでしょうか。
その中でも、中原淳一が編集した少女雑誌『それいゆ』は少年時代の金子國義さんの愛読誌で、大いに影響を受けたと言います。
金子國義作品には少女画以外にも美少年を描いたものも多く、そこには高畠華宵風味も感じますし、のちには、竹久夢二のようにおおくの書籍の装丁や挿絵を手掛け、様々なグッズが作られていきます。
また、夢二の可憐な少女画のモデルとして有名なお葉が、同時期に責め絵画家・伊藤晴雨のモデルであったことに象徴されるように、可憐な少女絵と同時に、猟奇趣味の責め絵残酷画の盛り上がりも、日本の大衆文化を語るうえで欠かせない要素です。
澁澤龍彦氏に見いだされ、退廃的でエロティックな名作『O嬢の物語』の挿絵と装丁を手がけるところから本格的な画業をスタートし、その後サドやバタイユの作品にかかわることになる金子國義さんは、まさにその二大潮流の交わるところに位置する画家であるといえるのではないでしょうか。
現代のネット絵師の文化でも、猟奇耽美ゴシック趣味はきらびやかな萌え絵とならび交じり合う人気ジャンルです。
金子國義さんや、人形師四谷シモンさんに代表される澁澤龍彦の系譜とでもいうべき、猟奇耽美の色の濃い、アンダーグラウンドカルチャーの地下水脈もまた、現代にも脈々と流れ込んでいるのです。
少女雑誌文化と猟奇耽美趣味が受け継がれ、交わるところとしての
金子國義さんと現代の神絵師さん達との共通性を、駆け足で語ってみたところで、最後に
個人的イチオシの金子國義作品を。
金子國義のアリス
金子國義さんのお仕事は多岐にわたり、短いスペースで語りつくすことは難しいのですが、おすすめを一つあげるなら
やはり『不思議の国のアリス』と『鏡の国の国のアリス』でしょう。あ、二つですね。
中でも新潮文庫版『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』は
文庫なのにカラーで金子國義さんの挿絵がふんだんに楽しめるという
コスパ最強!!おすすめの二冊!なのです。
不思議の国、および鏡の国の『アリス』は世界的にも人気の題材で現代の絵師さん達も、多く描いています。
多彩なバリエーションのある『アリス』像ですが
元祖商業挿絵のジョン・テニエル画のイメージが圧倒的に強く、
アリスらしさ=テニエルの挿絵、みたいなところがあるため、いかにアリスらしさを残しつつ、テニエル画と違うオリジナリティを出せるかが絵師の腕の見せ所となります。
金子國義さんのアリスは、艶やかな唇に、大人びたメイクをしているような瞼と眉、ほのかにエロス漂う独自の作風でありながら、確かにアリスであるという、素晴らしいバランスで描かれている名作だと思います。
新潮文庫版アリスの翻訳者は、澁澤龍彦氏の元妻である、詩人の矢川澄子さん。
軽快な文章や、章の始めの文字を大きくする欧米風味など、ほかの翻訳書とは一味ちがう楽しさがあります。
金子國義さんの挿絵といあいまって、日本語版独自のオリジナリティにあふれた一冊
になっているのではないでしょうか。
三度の作品化に、作品のモチーフに、と繰り返し金子國義さんが描き続けた『アリス』を入口に、
きらびやかな少女絵と猟奇耽美な闇の交差するその魅惑の世界を堪能してみてください!
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