【こんなん流行っちゃダメだろ】最近台頭しつつある小説の新ジャンル:タワマン文学 の金字塔とも呼べる1冊「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」を読んだ感想文

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この気持ち悪くて醜悪で惨めな気持ちになる本、あんまり流行んないでほしいけどみんな読んでくれ、いっぺんだけ。

目次

そもそもタワマン文学って何?

とりあえず↓を読んでほしい。タワマン文学というものがどういう小説なのかを端的に表しているので。

「俺は少しだけ、彼の気持ちがわかる気もしますけどね」
 ビールのグラスを飲み干した健太がつぶやく。
「頑張って東京に出てきて、毎日嫌な思いしながら働いて、35年ローンで家を買っても、東京って上には上がいるじゃないですか。それも無限に。仕事でも先が見える中、自分が何者でもないという現実をつきつけられて、それでも惨めな自分を認めたくなくて、自分のアイデンティティをマンションや街に投影して承認欲求を満たす人の気持ち、わからなくもないですね。少しだけ」

外山薫『息が詰まるようなこの場所で』KADOKAWA 2023年

タワマン文学を代表する小説の一つ、「息が詰まるようなこの場所で」におけるワンシーン。この健太が語るようなエピソードとともに、語り手の劣等感をこれでもかとわかりやすく突き付けてくるのが、タワマン文学だ。

自分の住む場所や地位、愛してくれる人といった、ごく端的でわかりやすい「人間の価値」のようなものを、喉から手が出るほど欲しがって追い求め続けたのに手に入れられない。でもそんなやるせなさと向き合う気概は起きず、対処療法的に、最低限の承認欲求を満たそうと惨めに奮闘する。そういう人たちの話。

もともとタワマン文学というのは、不動産クラスタといわれるTwitterで不動産関連の情報を提示する人たちが、「タワマン高層階は気圧が低くてお米が硬くなっておいしくない」などとタワマンを面白おかしくいじっていたのが始まりです。

News Pics 【窓際三等兵×嶋浩一郎】「タワマン文学」はなぜバズるのか。より
https://newspicks.com/news/8091438/body/

元々がネタでタワマンを嘲笑の対象としてとらえる遊びの話だっただけに、タワマン文学における主人公は必ずしもタワマン住みの高所得層とは限らない。タワマン文学をタワマン文学たらしめているのは、むしろ登場人物の行動に見え隠れする「劣等感」の方にある。
自虐、見下し、マウンティング等々、あの手この手を使って自分のアイデンティティを守ろうとする。



今回はそんな現代人の劣等感をこれでもかとダイレクトに伝えてくる、タワマン文学の金字塔である「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」を読んだので感想を勝手に書きつつ紹介させてください。

どんな人間でも、必ず一つは自分の不快な劣等感が呼び起こされるエピソードに出くわせるはず…。

「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」

集英社より
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-788083-0

この本は、いわゆるタワマン文学というジャンルの大きな火付け役になった最初の本かと思う。

内容はショートショートの詰め合わせで構成されており、劣等感を抱えて生きる様々な立場の人間が登場する。


「東京に住む人間を羨む低所得層」や、「パパ活で普段豪勢な生活をしているけど田舎の地元に根付いて暮らしている同級生を羨む女」や、「周りを見返すために東京の大企業に入ってはみたけど、結局人間について行くことができずに帰ってきてしまった中年」など、さまざま。

それらの人たちの一人称視点で、自分の惨い、と言っても周りから見れば特別酷くもない現状、つまり頭の中で肥大しきった不幸話と、「やるせないよな」という心情を吐き捨てて、ただそれだけで終わる話が語られる。

適当に個人タクシーに乗ってマンション名を告げると、「いいとこ住んでるんですね~」とデリカシーのないことを言われたので無視して外を見ていました。そうだよ、私はいいマンションに住んでるんだよ。いい会社に入って、頑張って働いて、セクハラにもパワハラにも耐えて頑張って生きてるんだよ。

ドアを開けると部屋は真っ暗。バルミューダの加湿器と、各所に置かれた高い観葉植物たちに水をやります。風邪でも引いたのか、何だか部屋が寒々しく感じられて、今年初めて暖房を入れました。「いい歳して」と同期に笑われたジェラピケに着替えて、冷蔵庫にあった京都醸造のビールを飲みます。350mlの缶なんてすぐに空いてしまいました。高価なものがたくさん置かれた高価な家にひとりぼっち。私の人生みたいだな、と思って泣きそうになりました。

麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』集英社 2022年

おそらく、この本の著者は「自分の人生が順風満帆でない人間」全員が読んだ際に、なんらかの不快な過去の記憶がほじくられることを期待してこの本を書いたのではないかと思う。

登場人物の経験と照らし合わせて、類似した読者の経験を思い起こさせて劣等感を呼び起こさせる。そのために、どんな人が読んでも「刺さる」ように仕向けるべく、さまざまな立場の人間が本に出てくるのではないかと思う。

読んだ自分としても、他人事のようにしか見れない話から、自分のことを言われているような抜き差しならない話までさまざまあり、後者の話では自分を思い返して最悪な気分になりました。




自分の愚考の正誤は置いておいても、とにかく読者の劣等感が無理やりに引っ張り出される本であるのは間違い無い。もしかしたら人によっては全く刺さらない人もいるのかもしれないが、これを進んで手に取って読もうとする人間の中にはそんな人はまずいないのではないでしょうか?

昔、ウユニ塩湖に行ったんですよ。高校のとき「ウユニ塩湖行ったら人生変わった」って、クラスの子が冬休み明け、興奮気味に言ってたんですけど、その子、慶應に行って偉そうにしてたけど、結局地元に戻ってきて、今はスタバの新作の話ばかり。笑えますよね。田舎のスタバはまずいって言ってたのに。

私?  変わりましたよ。自分のありのままを肯定してあげられるようになったんですよ。他人なんて羨ましくないし、這い上がろうとする人を、必死だなぁ、って笑えるんですよ。彼女のきれいな服や皮膚に、二度と取れない草と土の匂いがじわじわと染み付いてゆくのを、汚い水たまりの中に立って、眺めているんですよ。

麻布競馬場『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』集英社 2022年

また、表現も生々しい。エピソードはほとんど全部が語り手の一人称視点で、口語調の短い文章ばかりで構成されることが多い。いちいちすべてが、ふつふつと湧いて出た自分の感情をその場で吐き捨てるような切羽詰まった表現になっている。その分、感情の塊が読者にダイレクトに伝わってくるのだ。それも醜悪で不快な負の感情が。

ある程度は手を変え品を変えつつも、結局登場人物全員が言い訳をして、他人を見下して「自分は他人とは違う特別な存在だ」と自ら慰める。もしくは慰めることもままならないと知ると「汚い水たまり」の中に立って自虐に走ることで、他人からの批判に、あらかじめ釘を刺すことで自分を保護する。最もわかりやすく醜い形で保身に走っている様が克明に描かれているのである。

さも「いや、自分はそんなポーズはとっていませんよ」と言いたげな表情で。

自分の想像でしかないのですが、生きとし生ける人間はみな↑のような経験があるのではないでしょうか?大なり小なり、その程度に差はあれど。



この本を読んでいると、そのような醜くも等身大の人間の負の感情に、強引に気づかされてしまう。
自分は最初に読んだときにそんな印象を受けました。

各所で話題になっているらしいのですこの本が。話題になっていいのか?

近場の本屋に行くと話題の図書として目立つ棚に置かれていたり、大学の図書館にも寄贈されていたり、様々な本屋で週刊売上ランキング1位を記録したりと、かなり多くの人間の目に留まっております。

帯には、大盛堂書店、丸善丸の内本店での月刊ないし週刊売り上げが1位とでかでかと書かれている。
自分が通っていた大学にも置いてあった。

集英社より
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-788083-0

めちゃめちゃ個人的な感性でマイナスな話をして申し訳ないんですけど…

この本、流行っちゃダメじゃないか?

本そのものがダメ、と言いたいわけではではないんですけど、「読んだ後に引きずられる感じ」が良くない。この本に出てくる語り手のほとんどは「自分ってなんか人生うまいこと運んでないけどこのままでいいよね。ね?そうだと言ってよ。」とでも言いたげな、自分の負の感情を吐き出してそのうえで肯定してもらって終わるのを望んでいるような人たちなんですよね。冷静に考えて良いはずはないんだけど。

どうもこの本を読んだ後だと、いたずらに共感させられた負の感情に焼かれて、「なんか自分も、うまいこといってないけど、まあ人生ってこんなもんかも」と思わせられるような絵も知れぬ魔力のようなものがある。アマゾンのレビューを見てみると顕著なんですけど、結構その状態になっている人間多いです。



↓この人たちは、一つのエピソードに心がやられ過ぎて自分たちの過去の負の感情エピソードをぶちまけてしまってます。タワマン文学風に。

おい、こうなっちゃ、だめだろ😰。「109人のお客様がこれが役に立ったと考えています」じゃないんだよ🥲🥲🥲

仮に共感できたとしても、こんな人間のキモさを濃縮しきった存在からは少しでも脱却しないといけないって、本当なら反面教師にするべきなのに、どうしても引きずられて、読んだ多くの人たちが、自分の人生と重ね合わせてやるせなさを感じてしまう。

読んで悲しくなり、他の人の感想を見てまた悲しくなる、あまりにネガティブエネルギーの詰まりきった悲しい本でした。
本の内容に共感できそうな方もそうでない方も是非一度読んでみてください。でも内容に引きずられないでください。僕は悲しくなるので。

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