【好きな作家について語る】綾辻行人編 その3

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どうも、片田舎のヴィレヴァンで本棚いじってるスタッフです。
自宅の本棚、九割くらいはひとごろしの本です、って書くとだいぶヤバいひとみたいですが、ヤバくないです、たぶん。

さてさて、前回、前々回と推し作家綾辻行人先生のことと、代表作『十角館の殺人』についてご紹介いたしましたが、今回は『十角館』以外の館シリーズについて書きたいと思います。

目次

館シリーズ

綾辻行人の代表シリーズといえば館シリーズ。
建築家中村青司の建てた館を主題にした作品群で、現在九作ほど発表されています。

『十角館の殺人』1987年9月
『水車館の殺人』1988年2月
『迷路館の殺人』1988年9月
『人形館の殺人』1989年4月
『時計館の殺人』1991年9月
『黒猫館の殺人』1992年4月
『暗黒館の殺人』2004年9月
『びっくり館の殺人』2006年3月
『奇面館の殺人』2012年1月

初刊がノベルスだったりミステリーランドだったりしますが、現在はいずれも講談社文庫で出版されてますので、お探しの方は文庫の棚をごらんになるのが一番早いです。いやー、ミステリーランドで出たときはびっくりしたね。読むまでガチで館シリーズだと思ってなかったもんね。

館の名前から大方何がモチーフとされているのか、分かるかと。
もちろん中村青司設計のものはきっちり仕掛けがありますので、そこを念頭に置いたうえでページをめくってください。探偵やワトソンも、そこを踏まえて推理を展開させておりますので。

私、新本格狂いのアヤツジストですので、本来なら一作ずつ紹介していきたいところですが、今回はぐっとこらえて二作ほどピックアップ。
十年以上前からずっと言い続けているんですが、綾辻行人の館シリーズ、

ミステリとして最良なのは『十角館の殺人』
物語として最良なのは『水車館の殺人』
館として最良なのは『時計館の殺人』


というのが個人的な評価です。
『十角館の殺人』については前回記事にしましたので、今回は残り二つの館について少しだけ語らせていただきます。

『水車館の殺人』

岡山県の山間にある、巨大な三連水車を抱いた建物、『水車館』。
館には当主の父である幻想画家の作品が集められており、年に一度、当主とも深く関わりのある熱狂的な愛好家たちにだけ公開される。
仮面をつけた車いすの主人と、はかなげな美少女が住む館で、一年前に起こった事件と現在の事件が交差して語られる一作。

館の住人たち以外の人物が訪れた日に起こった事件が中心なのですが、十二年前の事故、事故の生き残りである当主の友人、幼いころから半ば幽閉されるような形で館に住まう少女、一年前失踪した僧侶、館のどこかに隠してあるという幻想画家の遺作、館に仕掛けられたからくり、いろいろなものが絡まって話が展開していきます。

『十角館の殺人』の記事でも書きましたが、秘密の抜け穴なんて、推理小説ではあってはいけないものなんですよね、本来。密室殺人と銘打って、解決編に「実は秘密の抜け穴がありました」なんて書いてあったりしたら、私なら投げますね、本を。壁に向かって。(本を投げてはいけません。)

けれど、この館シリーズはもともと、それがあることを前提にして書かれているもので、最初から読者には(あるかもしれないという疑いの状態ですが)提示してあるため、アンフェアではないのです。
それどころか、隠し部屋や隠し通路、あるいは住人たちの秘密などに関して、あちこちに伏線が張ってあるので、最終的にはものすごく綺麗に収まっている、という感じ。
「ああ、ここにこう書いてあったのは、そういう意味があったのか」と思える箇所がたくさんあるのです。

仮面の男、孤独な美少女、世俗から隔離された館、幻想的な絵画、本格ミステリの要素がこれでもかと盛り込まれてますので、雰囲気も抜群。
いろいろね、「本格ミステリ」とはなんぞや、とその定義が論じられていますが(今もなのかな、昔はその手の話はよく聞いたものですが)、個人的にはやっぱり魅力的な謎論理的な解決に加え、雰囲気も大事だと思うんですよね。
ですので、それらを踏まえれば、この『水車館の殺人』はまごうことなく本格ミステリ

さて、館シリーズのなかで『水車館の殺人』は物語として最良、といいましたが、この話、なんといっても最後の一文が最高なんです。
初読時、この一文を読んだ瞬間、ぞわっと鳥肌が立ったことを今でも覚えています。もうずいぶん前のことなのに。
今ぱらぱらめくりながら記事書いてますけど、この一文、傍点振ってなかったんだなぁ。
とくに強調することなくここまで衝撃的な文で終わった作品は、なかなかないと思います。
余談ですが私、綾辻行人の傍点の振り方がめちゃくちゃ好みでして、できればこの記事にも傍点ふりたいんですけど、機能としてそなわってなさそう。仕方なく太字にしてるけど、そうじゃないんだよなあ。

記憶を忘れて読み返したい本ナンバーワン。いや、十角館もかな。いや、ほかの館シリーズも、Anotherも、できれば全部忘れてもっかい読み返したいな……。
とりあえず、初読時の衝撃はすさまじいので、読んだことのない方が心底うらやましいです。

もちろんミステリとしての仕掛け、館の仕掛けなども素晴らしい作品ですが、とにかく物語のオチがいい。
そりゃ叫びもするわ、となる作品。

『時計館の殺人』

こちらは第四十五回日本推理作家協会賞受賞作。
『暗黒館の殺人』に次ぐボリュームのある一作です。
舞台は鎌倉の外れに建つ奇妙な館、『時計館』。
いつ見ても好き勝手な時間を指している時計塔、振り子時計を模したような奇妙な間取りの館、館内の壁面を埋め尽くす時計の数々。

少女の霊がさまよっているという噂の立つ館に閉じこもり、交霊会を試みようとするところから話は始まります。
いやもうね、中村青司が関わった館に籠もろうってこと自体がね、全力でフラグにしか見えないわけですが。
もちろん何も起こらないはずがなく、訪れた九人を襲う惨劇。
十年前の少女の死からすべてが始まり、終盤で一度犯人らしき人物があげられるものの、最終的にはさらにひっくり返され、物語の新たな面が読者の前に引きずり出される。

他の館もそれぞれ仕掛けはあるわけですが、『時計館』は特にその仕掛けがすさまじい。
大がかりという意味でもあり、狂気的という意味でもあり。
いや、ほんと、そうくるか、と。
あれも、これも、この部分も、全部伏線だったんかい、と。
幻想小説やホラー小説ではなく、あくまでもミステリという形をとっている以上、読者に対してアンフェアなことはできないわけで、館の仕掛けについて、過去の事件について、これまたあちこちに伏線が張ってあります。
それを丁寧に拾い上げていく解決シーン。
探偵役が真相を語るシーンに傍点が多いとそれだけで興奮してしまうのって、私だけですかね。ミステリ読みはみんなそうだと信じたい。

『時計館の殺人』は館そのものの仕掛けが壮大なので、他の館シリーズを読んでちょっとこなれてからのほうがいいかもしれません。

これを書いている現在ではまだ予約受付前なんですが、講談社の会員制読書クラブの有料会員限定で、時計館の表紙に描かれた時計を置き時計としてグッズ化するそうでして。
知らせを受け取った会員はたぶんみんな、思ってるんじゃないっすかね、その時計、仕掛けまで原作に忠実とかいわないよね、と。ちゃんとした時計だよね、と。


ちなみに、かつて綾辻行人が監修したプレイステーションゲーム「ナイトメア・プロジェクトYAKATA」は、この話に出てくる美少年が主人公だったりします。まあゲームと小説は別軸なので、同一人物とは言い切れないんですが。
「YAKATA」ね、ミステリを原作とし、ミステリ作家が関わっておいて、サウンドノベルではなくRPGとして作られたっていう異色作でしてね。ゲームとしての評判はまあうん、あれなんですが、アヤツジストとしてはめちゃくちゃ楽しめた一作でしたね。
だって、小説のなかに出てきた建物内をうろうろできるんだよ? 原作読んでトリック知ってるから、そのとおりにからくりが動くとなおさら楽しいよね。迷路館とかほんと楽しかった。
実在する作家がモデルのキャラとか、ミステリ関係の小道具とか小ネタとかも満載で、ミステリ好きは絶対楽しめる。メルカトル鮎が敵として出てきたときにはげらげら笑いましたね。やっぱりこいつは敵認定なのか、と。誰か一緒にメルカトル殴りに行こうぜ。
ただ残念ながらこのゲーム、DL配信とかされていなさそうで、プレイするにはリアルディスクと動作に問題のないPSかPS2本体が必要です。あとメモカ。いやー、最近は自動セーブとかだから、若い人は知らないでしょうね。昔はね、ディスク系ゲームのデータ保存するのにメモリーカードっての、使ってたんですよ。

その他の作品

だいぶ話がそれましたが、ひとまず、『十角館』『水車館』『時計館』はシリーズ内でも読んでおくべき作品ということです。
が。
もちろん、他の作品もそれぞれに素晴らしいのです。

『迷路館』はその名の通り迷路になってる館。火事のとき絶対ダメなやつじゃん、とかまあそういうのは置いといてね。それ言ったら中村青司の館全部じゃんってなっちゃうからね。
これも時計館に負けず劣らず館そのものの仕掛けが素晴らしいし、作中作という形もまたうまく仕掛けとして組み込んであって、まあ騙されますよ、読者は。

『人形館』は館シリーズではちょっと異色作。でも好きなんですよこの話。
傍点、地の文への(カッコ)の挿入のタイミング、ダッシュ(――)と三点リーダ(……)を使っての不安定さの演出が綾辻行人色満載でたまんない。

『黒猫館』は、ミステリ作家はみんな大好き(偏見)ルイス・キャロルネタ。ミステリ好きもみんな大好き(偏見)アリスネタ。
それをうまく綾辻テイストに仕上げてある一作。
この作品、鈍い私にしては珍しく途中で仕掛けになんとなく気づけたので、その点でも個人的に印象深い作品です。
トリックに気づけたとしても、それはそれで楽しめるのが良質のミステリ作品。

『暗黒館』もまた少し毛色が違う超大作。
これはね、他の館シリーズを読んでからじゃないと難しいと思います。
ただある意味原点なので、館シリーズを読んでいるひとは押さえておくべき一作。
他のシリーズに比べてちょっとオカルト色が強めかな、という印象。
ノベルスだと上下巻、文庫だと四巻。相当な文量ですが、これらすべて、本文第五部ラストの二行のために綴られた文字だと思っております。

『びっくり館』はまさかのミステリーランド。
ミステリーランドってのは、「かつて子どもだったあなたと少年少女のための――」をコンセプトとした講談社のレーベルです。企画者が講談社の編集者宇山日出臣氏だって時点で新本格好きは食いつきますよね。
他の館シリーズを読んでないひと(少年少女)にも分かるように書いてあるあたり、逆に綾辻ファンの心をくすぐってくる。

『奇面館』は登場人物全員が仮面をかぶっている状態で起こる殺人事件と、設定そのものが異常。仮面をかぶっているひとたちは、本当にそのひとだと思われているひとなのか、というところから疑わなければならない。
これ、ノベルスで出たときの帯の文句が「懐かしくも新しい」だったんですよね。シリーズを通して読んでいるひとは読み終わって、「ああ、そういう意味か」ってなったと思います。

中村青司の館が関わるいう共通項があるだけなので、話ごとに大きな繋がりはなく、どれから読んでも大方大丈夫かな、とは思います。暗黒館以外は。
ただまあできるだけ順番に読んでいただけたほうが楽しめる部分も増えるかな。

新作『双子館の殺人』

『奇面館の殺人』から十一年。
現在新作『双子館の殺人』の執筆準備中、だそうでございます。
この間のエイプリルフールにTwitterで、双子館断念して殺人鬼書くって嘘ついてらっしゃいましたけどね!

エラリィ・クイーンの国名シリーズに倣い、十作を目途にしたい、と以前よりおっしゃっておられまして、これが館シリーズ最後の作となるのかな、と。

タイトルから考えることはいっぱいあるんですけど、あんまり下手なことは書きたくないファン心理。分かります? 予想が当たってほしいけど、当たってほしくない感じ。
なので書きません。妄想するだけにしておきます。
ただまあ双子っていうと、綾辻作品の別のタイトルが脳内に浮かんでくるんですけどね。
あの作品の犯人(犯人?)、ラスボスというより負け確定イベントのエクストラボスみたいな感じだしな……。エンカウントしたら即逃げましょう。


ともあれ、館シリーズ最新作、楽しみにしております!


さて、館シリーズについて語ってまいりましたが、今回はこの辺で。
次回は、これもある意味代表作、「Anotherなら死んでた」で有名な、『Another』シリーズをご紹介したいと思います。

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この記事を書いた人

本読み。
新本格好きのSF初心者。

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